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解決事例

2022.01.13

出産直後に新生児ヘルペスの発疹があったが必要な検査を実施せず脳炎を発症し、後遺症が残ったことについて約9000万円で示談解決に至った事例

医療ミスの事案概要

赤ちゃんの皮膚に発疹が出て悪化していた期間が数日間ありましたが、検査もされず退院になり、自宅でけいれんを起こしてしまったという非常に残念なケースです。

出産の時には特に問題はなく、元気におっぱいを飲めていました。入院中、看護師さんが発疹があり段々悪化していることを記録していました。発疹が出たときに適切に検査をして治療を開始していれば、98%の赤ちゃんに後遺症がなかった可能性がありました。「よく洗うように」といわれて退院になりましたが、自宅に帰っても首だけではなく頭にも唇にも広がり、ご両親は心配して知り合いの医師に相談し、「ヘルペスの検査をしたほうがいい」といわれました。病院に電話をして事情を話しましたが「大丈夫だ」といわれ、その後、手をカクカクさせる動きが見られたため、病院の産婦人科を受診しましたが、その時も「大丈夫」といわれて帰宅を余儀なくされました。その日のうちに全身の痙攣が起こって別の病院に救急搬送されて初めて新生児ヘルペスだと診断されました。

示談交渉

産科医療補償制度の原因分析報告書

このケースでは産科医療補償制度に伴う原因分析報告書において、「生後9日目に水疱を多数認める状況で、抗生物質の軟膏を処方しただけで経過観察をしたことは一般的ではない。」と明記し、生後9日に水疱を発症することはまれであり、多発していることから新生児ヘルペスを疑い、鑑別することが一般的であると解説していました。


さらに、新生児に異常が認められる場合には、適切な検査、処置が行われるよう、専門医への相談や新生児搬送も含めて対応することが望まれるとも述べていて、単純ヘルペス脳炎診療ガイドライン、国立感染症研究所ホームページを参考にした記載がありました。

つまり、当時のガイドラインや、新生児医療において、生後1週間から10日頃に水疱が出現した場合には、単純ヘルペスの可能性を考えて診断を行うべき義務を認めた内容になっていました。

病院側の対応

相手方の病院は、おそらく原因分析報告書の内容を考慮し、話し合いに応じたと考えます。
通常、感染症のトラブルでは、病院側から患者の体質や免疫力が低下していたから感染症を発症したのであって病院に責任はない、といわれることがよくあります。しかし、新生児ヘルペス感染症は産婦人科医師も小児科医師も注意しておくべきだといわれている疾患であり、水疱が生じて数日間も放置していたことの責任は明らかなケースでした。


また感染症のトラブルは、病院側から治療をしても回復していたかどうかわからないという反論を受けることもよくあります。しかし、今回のケースでは交渉の当初から、新生児ヘルペスに関するガイドラインや医学文献等を調査して、後遺症が残るケースの特徴や頻度等を相手方に明確に伝え、特に皮膚に症状が出ていた時点で治療をしていれば予後良好であるとの医学的根拠を示しながら伝えたことで、相手方医療機関も責任を早期に認めて話し合いでの解決に至ったと考えます。

産科医療補償制度は出産後の感染症(新生児ヘルペス等)も対象となる

分娩中のトラブルによってお子さんに脳性麻痺などの後遺症が残ってしまった時に、一定の要件を満たせば産科医療保障制度によって救済される仕組みがあります。補償の対象となるのは、分娩時のトラブルだけではなく分娩による母子感染の新生児ヘルペスを発症してしまったケースも対象になります。 産科医療補償制度の要件は、身体障害者手帳1・2級相当の脳性麻痺になったことが必要ですが、新生児ヘルペスのように重症化するとヘルペス脳炎に至り後遺症が残ってしまうケースも補償が認められます。

富永弁護士のコメント

新生児ヘルペスは、新生児の感染症としては比較的よく知られた感染症です。元気に生まれてミルクもよく飲んでいた赤ちゃんに、発疹がでた段階で、新生児ヘルペスのことも念頭におくべきだったと考えられます。

出産前後は、産婦人科医師と新生児(小児科)医師の2つの診療科が関わり、相互の連携が不十分なときに今回のような悲しいケースになってしまいます。そのようなことを避けるために、産婦人科医師のための産科診療ガイドラインにも新生児の感染症を見落とさないよう明記されています。新生児ヘルペスは新生児を扱う専門家の小児科では当然知っておくべき疾患です。
また、ヘルペス感染症は、抗ウイルス薬という治療法が確立しています。せっかく治療方法があり、治すことができたのに、関わった医師がだれも検査をしようと思わなかったのか、残念でなりません。

交渉においては、ヘルペスウイルス感染症には効果的な治療法(抗ウイルス薬)があり治療効果も良いという具体的な医学文献を示したことで相手方病院も責任を認めざるを得なかったのだと感じました。交渉においても十分な医学的調査が重要だということを改めて感じたケースでした。

ご家族は、医師から「仕方がなかった」と説明されていました。しかし果たして本当に仕方がないケースだったのか、医学的に十分な調査を行って検証することで問題点が明らかになりました。「本当に仕方がなかったのだろうか?」と感じておられるなら、是非、医療専門の弁護士に相談して見られることをおすすめします。

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この記事を書いた人(プロフィール)

富永愛法律事務所
医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。

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