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解決事例

2022.11.08

基準量を大幅に超えた陣痛促進剤の投与により赤ちゃんに脳性麻痺が残ったことについて約1億6500万円で示談が成立した事例(産科医療保障制度の支払金1800万円を充当)

医療ミスの事案概要

近畿地方の総合病院での出産時、陣痛が弱いためオキシトシン(陣痛促進剤)を投与されました。オキシトシンは、子宮収縮を促進する薬剤です。分娩誘発、微弱陣痛等の場合に使用されます。投与方法や投与中の管理が重要な薬剤です。使い方を誤ると、陣痛が強くなりすぎる(過強陣痛)や子宮破裂になることもあり、赤ちゃんに悪影響を与えることもあります。
このケースでは、ガイドラインで定められた使用方法に従わず、基準量を大幅にこえて投与していました。カルテに詳細な記載もなく、ずさんな管理方法だったため、分娩監視装置(CTGモニター)で赤ちゃんの苦しいサインが認められていたのにもかかわらず、投与を続けていたことが問題でした。赤ちゃんは長時間、酸素が足りない状態が続いたことで、重度脳性麻痺の障害が残りました。

法律相談までの経緯

ご両親はお子さんに脳性麻痺の後遺症が残ったため、できる限りのことをしてあげようとリハビリなど、大変忙しい毎日を過ごされていました。ご両親としては、出産直後から産婦人科の対応に医療ミスがあったのではないか、訴えたいと思っておられましたが、お子さんが、小学校に入学されて少し落ち着かれたタイミングで、初めて弁護士事務所を探したと仰られていました。

相談後の対応・検討内容

まず産婦人科に任意のカルテ開示を申請しました。分娩から5年以上経過しており、一般的なカルテ保存期間(5年間)を過ぎていました。病院から産科医療補償制度の原因分析調査として機構へカルテを提出していたため、病院からカルテの開示を受けることができました。カルテを検討したところ、オキシトシン投与方法が、産科診療ガイドラインに違反していることがわかりました。医療ミスによって脳性麻痺になったことは確実だと考え、病院側に交渉を申し入れました。

病院側の対応

弁護士名の通知文書を送ってから1ヶ月以上、病院からの回答はなく、何度も病院に対して回答するよう求めました。病院は「顧問弁護士と相談しているから時間がかかる」というコメントを繰り返し、何ヶ月も経過しました。法律相談のときにお子さんが8才で、時効である10年が近づいていました。

ようやく弁護士から連絡が・・・

病院に対し、これ以上回答がない場合、ご両親の意向どおり訴訟を起こすと伝えたところ、ようやく弁護士から連絡がありました。しかし、弁護士からの回答文書には、自分の責任ではない、という産婦人科担当医の言い訳のようなことがたくさん書いてありました。そのため、ご両親と相談し、いつでも訴状が提出できる準備をして、相手方弁護士に医療ミスだと認めないのであれば直ちに訴訟を提起する、と伝えたところ1ヶ月後に、「話し合いで解決したい」と病院側から回答がありました。

示談交渉

産婦人科医が責任を認めない不誠実な回答があったことを考え、訴訟を起こす準備は進めながら交渉に挑みました。相手方弁護士には、訴訟になれば請求額は2億円を超える試算をしていることを伝え、すでに作成していた訴状の一部を送付しました。また、この金額をもとにした話し合いでなければ応じないと伝えました。
相手方からは、総合病院の母体である全国組織で検討し1億円を超える金額提示がありましたが、その内訳はご両親が納得できるものではなかったため、再度金額交渉を行い、最終的に病院側から約1億4500万円の金額提示がありました。

ご親と一緒に、訴訟を行う場合と、示談交渉に応じる場合のメリット・デメリットを検討し、訴訟になった場合には早くても3年以上かかることなどを考慮して、約1億4500万円の提案を受け入れることにしました。交渉期間は1年以上かかり、時効の10年(お子さんの10歳の誕生日)の数ヶ月前に示談交渉が成立しました。

医療ミスと時効について

ご両親は、相談に来られたときに時効について大変心配しておられ、不安な思いをお持ちでした。
時効に対しては、10歳の誕生日までに裁判所訴訟を提起することで、時効が成立しないようにする効果があります。示談交渉は、相手があるものですので、時効が迫っていても、相手が思うように対応してくれない場合には、時効になる前に訴状を裁判所に届ける準備をしておかなくてはなりません。今回のケースでは、いつでも提出できるところまで訴状を完成させながら交渉を進めたことで、ご両親も安心されたのではないかと思います。実際には、訴えることなく話し合いで解決に至ることができましたが、遅々として進まない交渉だった場合には、訴訟の手続きに進まざるをえないところでした。

富永弁護士のコメント

陣痛促進剤の医療事故

陣痛促進剤オキシトシンの投与方法は、今や、全ての産婦人科医が産科診療ガイドラインに沿った方法で行わなければいけないことになっています。それでも、まだ、一部の産婦人科では医療ミスといわれても仕方のない方法で、投与され、お母さんやお子さんに障害を残す事故があとを絶ちません。このような医療ミス、医療事故の被害者をなくすため、産婦人科医の集まりである学会でも、産婦人科医への教育を熱心に行っています。 「陣痛が弱い」、「陣痛を起こす薬を使う」、というような説明があったときには、陣痛促進剤「オキシトシン」が使われている可能性が高いと思います。出産のトラブルに遭い、「もしかして、あの点滴の投与が問題だったのではないか?」と思ったときは、是非、弁護士に相談してみてください。

産科医療補償制度の補償金と賠償金の関係

産科医療補償制度からの補償金は、示談交渉や訴訟で賠償金を受け取った場合はどうなるの?

産科医療補償制度から受け取った補償金は返す必要はありません。しかし、示談や訴訟で勝訴的な解決に至ると、それ以降、産科医療補償制度からの補償は受けられなくなります。産科医療LABOでは、産科医療補償制度と示談・裁判等で受け取った賠償金の関係について解説していますので、詳しくはこちらをご覧ください。
産科医療補償制度のページにリンク

制度について詳しい弁護士を選んでください

産科医療補償制度について、また制度と示談・裁判の関係についても、詳しい弁護士を探すことをお勧めします。ご両親が納得するまで詳しく説明してもらうことが重要です。十分説明を受けないまま示談が成立してしまうと、依頼した弁護士との間に新たなトラブルになることもあります。
疑問に思ったことは、気軽に聞けて、詳しく説明してくれる弁護士を是非、見つけてください。

この記事を書いた人(プロフィール)

富永愛法律事務所
医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。

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