解決事例
無痛分娩時の麻酔ミスよって母親が寝たきりとなり、赤ちゃんが死亡したことにつき、医師の過失を認め約3億円の賠償を命じた事例(京都地裁 令和3年3月26日判決)
事例の概要
破水のため入院した妊婦さんが、2日後に無痛分娩のために分娩室に入りました。
医師は、硬膜外麻酔の針を挿入する際、硬膜外針とカテーテルを硬膜外腔に留めたうえで麻酔薬を分割して注入しなければならないところを、針の先端を奥のくも膜下腔まで入れてしまい、何回かに分けて入れるはずの麻酔薬を一度に注入してしまいました。
妊婦さんは麻酔が効きすぎて、全ての脊髄が麻酔の効いた状態になり、心肺停止となりました。
搬送先の病院で緊急帝王切開にて赤ちゃんは取り出されましたが、お腹の中で胎児に酸素が十分に届かず、低酸素状態になり、血液が酸性になる酸血症を発症してしまい、産声をあげず、重症新生児仮死状態で生まれ、6歳で死亡しました。
妊婦さんも心肺停止後に、心臓の働きは戻りましたが、脳に酸素が届かない時間が長く、脳症になり、遷延性意識障害(いわゆる植物状態)となりました。
裁判所の判断は?
裁判所の判決では、麻酔薬注入時の医師の過失(カテーテルを奥まで入れすぎず、硬膜外腔に留めて麻酔薬を分割注入する義務に違反したこと)を認め、医療機関に対し約3億円の損害賠償を命じました。
なぜ損害額は3億円にもなったのか?
3億円の損害額は、付添い介護費や傷害慰謝料など複数の項目が含まれていますが、大部分を占めるのは、生涯にわたり24時間の介護が必要となった母親(妊婦さん)の将来介護費(1億2901万1148円)、寝たきりになってしまったことに対する後遺障害慰謝料(2800万円)、子どもが生きていたら自ら働いて得られたはずの逸失利益(2766万5948円)、亡くなったことに対する死亡慰謝料(2800万円)です。
弁護士費用1600万円も損害として認められました。(判決の場合には損害全体の一割が認められることになっているため)
すでに受け取っておられた産科医療補償制度の補償金や障害共済年金、高額療養費還付金などが控除され、最終的に母親に対し約2億4000万円、子どもに対し約6000万円、あわせて約3億円の賠償命令となりました。