よくある質問
医療法律相談Q&A
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弁護士選びのポイントは何ですか?
皆さんは、医療事故に遭ったかもしれないと思ったときに、どのような方法で相談する弁護士を選びますか?古くて新しい問題です。どのお医者さんがいいのか分からないのと同じように、「医療事故」「医療過誤」「医療ミス」で弁護士を検索しても、たくさんの弁護士が、いかにも医療を専門に扱っているような情報があふれていて、誰が本当に専門家なのか、わからないのではないかと思います。ここでは下の5つのポイントから本当に信頼できる弁護士の選び方を解説していきます。
①医療事故の勝訴経験があるか?
②患者様よりも医療事故の内容について理解できているか?
③カルテ開示と証拠保全の必要性を早期に判断できているか?
④カルテや画像をその場でみてくれるか?
⑤弁護士が薦める医療専門弁護士
①医療事故の勝訴訴訟があるか?
医療事故の裁判は、日本全国で約800件提訴されています。最高裁判所のホームページでも毎年公開されている情報です。その中で、医療訴訟の原告、つまり患者さん達が、一部でも勝訴できているのは10-15%程度です。つまり、ざっと考えて800件の訴訟のうち80~120件程度で一部勝訴していることになります。
しかし、1億円を請求して100万円の賠償が認められた判決は、勝訴といえるでしょうか?
最高裁判所のデータでは、1円でも賠償が認められれば「一部認容」つまり一部勝訴として扱われます。とすると、和解などを除いて1年間に本当の意味で勝訴判決を得られている患者側弁護士は、わずかということがわかると思います。
そんな中でも、常に医療事件に果敢に取り組み、示談や和解が難しく最後まで戦う必要がある「判決」に至る事例を扱って、それも「勝訴」する事ができる弁護士は、ごくわずかしかいないということがわかります。示談や和解で解決したことのある弁護士だからといって、医療機関側の超専門性が高く何十年も医療機関の弁護をしてきた病院側代理人を相手にした訴訟をすることは極めて困難な仕事ということです。
弁護士側の立場で考えると、常に扱える事件の数は限られています。簡単なトラブルと異なり、医療訴訟に本気で取り組むためには、医療以外の事件を扱っている暇など全くありません。
検討に非常に時間のかかる医療訴訟を本気で、1件ずつ取り組もうとすれば、私のように医学部で4年間基礎をたたき込まれ、その後病院で医師の経験を数年したとしても、医療訴訟を同時に20件以上扱うことはほぼ不可能です。
そうすると、医療訴訟で本当に勝訴した経験があるのか調べることでその弁護士さんの「医療訴訟」に対する本気度がすぐにわかります。(患者さんが勝訴して判決になったものは一般の方も判例検索をすれば調べられます。)
②患者様よりも医療事故の内容について理解できているか?
法律相談で弁護士さんに直接あって話す機会があれば、患者さん達よりも医療のことに詳しいかどうか、すぐにわかります。医療事故の被害にあった患者さん達は、本当に医療事故なのか、仕方がないことなのか、一生懸命にネットや本、雑誌などで問題になった病気について調べます。法律相談のときに、患者さん達よりも病気について知らない弁護士さんは、医療訴訟を扱うべきではないと思います。
③カルテ開示と証拠保全の必要性を早期に判断できているか?
直ぐに証拠保全を進める弁護士さんも、感心しません。医療事故では、病院からカルテや画像・ビデオを入手するだけでも、証拠保全という裁判所を通じた差し押さえ手続きを要するかどうか、慎重な判断が求められます。証拠保全手続きを適切に行えば、改ざんや紛失などのおそれは極めて低くすることができます。しかし、弁護士が保全申立書を作成し、裁判所で裁判官と面談・相談して、コピー業者やカメラマンなど専門業者を手配して、一度に確実に証拠を入手する必要があるので、通常、数十万円以上の費用がかかります。本当に医療過誤といえるかどうかを判断する手前の段階で、数十万円かかってしまうのです。最初から、訴訟提起をする覚悟があるなら確実な証拠収集は重要です。しかし、医療事故なのかどうか、仕方がなかったことなのかもしれない、と思っている患者さんにとって、数十万円をかけてカルテを入手しても、結局ミスはない、ということになるかもしれないのです。真実は知りたい、しかし、無理なら諦めようと思っている場合には、証拠保全手続きとは別に、患者さん自信でカルテ開示を求める方法もあります。カルテ開示は、証拠隠滅や紛失のリスクがないわけではありませんが、近年、大病院だけではなく小規模クリニックでも電子カルテが導入されています。電子カルテでは、建前上、カルテを修正したり加筆したりした場合には、その記録もすべて残り、出力の方法を工夫すれば修正した前後のカルテも入手することができます。手書きカルテのままという医療機関では証拠保全で書き換えを防ぐ必要がありますし、手術ビデオや医師・看護師のPHS電話通話記録など通常のカルテ開示では入手困難なものがあります。このように、カルテ開示や証拠保全手続きをするかどうか、を判断するには、その事件にとって「重要な証拠」が何かを、カルテを入手する前の段階で、見極める能力が必要になります。ここまで読んだ方ならわかるでしょう。「カルテを取ってみないとわかりません」「専門医に意見を聞かなければわかりません」という弁護士さんには、では、弁護士さんは一体どこまでわかっているのか、きちんと聞いたほうがよいです。
④カルテや画像をその場でみてくれるか?
医療過誤など専門性の高い分野では、弁護士さん自身が重要な証拠を見極めるチカラが必須です。建築訴訟なら、建築の工程表や設計図が読めなければ訴訟で勝つことは不可能ですし、特許訴訟なら特許申請書や科学技術の内容がわからなければ勝てません。医療訴訟では、もっとも重要な証拠である「カルテ・診療録・画像」が読めなければ勝てないのです。専門医がいなければカルテも読めない、そんな弁護士さんに依頼すると、相手から反論されるたび、書面を作るたびに専門医に謝礼を払わなければいけません。専門医が訴訟に関わってくれなければ勝つことは不可能だからです。専門性の高い医療分野では、特殊な検査や特殊なカルテもありますが、医学的な基礎知識がなければ、特殊な検査の意味や目的について、専門医と会話をすることすらできません。医学知識がなければ、外国語の訴訟をするようなものなのです。専門医はあくまで通訳をしてくれるだけです。通訳に、何を約してもらうか、訴訟に勝つために何が必要かは、弁護士が判断して進めていかなければならないのです。医療事故に遭ったあと、さらに、専門外の弁護士さんに依頼して弁護過誤レベルの対応に遭ってしまうことも珍しくありません。迷っているときは、正直に、その弁護士さんの経験や能力を質問する事が必要です。医療事故の紛争解決は、示談などの話し合いの場合でも1年以上かかることが珍しくありません。
⑤弁護士が薦める医療専門弁護士。
もし身近に、専門性は異なっても弁護士のお知り合いがおられるとか、無料法律相談に言って弁護士と会う機会がある方は、弁護士さんに「医療専門の弁護士」について聞いてみる方法もあります。弁護士が一番、弁護士業界のことを知っているから、です。①~④までの能力があるかどうか、弁護士だからこそ、専門外であってもある程度わかるのです。
病院側の代理人弁護士の先生から「私は病院側の代理人という立場であるため、患者さん側の事件は受任できない。知り合いが医療事故にあったから、引き受けてもらえないか」という連絡があれば、この世界では本当の専門家といえます。実際の医療訴訟で相手方として戦っている病院側代理人の弁護士さん達は、何十年間も様々な患者側弁護士と戦い、病院を守ってきた存在です。日本中で一番、「患者側弁護士」の能力を知っている存在です。弁護士には、依頼者のために最善を尽くすという使命があり、「利益相反」がある事件を引き受けられないという縛りがあります。これは、例えば、自らが病院側の代理人という仕事をしている以上、どんなに依頼されても、その病院や関係する病院などを相手にするような事件を引き受けるべきではない、という意味です。病院、患者のどちらかに偏った立場になってしまい、依頼者のためにならないからです。そのため、病院の顧問先や医師賠償保険を扱う保険会社の代理人、いわゆる「病院側代理人」から、依頼が来るのです。弁護士にとって、医療過誤訴訟の領域は極めて狭い世界です。病院側代理人は、病院や保険会社の利益のために、全力で戦ってきます。同様に、患者側代理人も、患者さんたちのために全力で戦います。弁護士同士は、他の弁護士の書いた書面や、証人尋問を見学する機会は殆どありません。敵方(病院側代理人)だけが、患者側弁護士の能力を比べることができる存在なのです。
とにかく、医療事故の被害に遭ってから、患者さんやご遺族は、事故に遭ったことに加えて、さらに辛く苦しい戦いを強いられます。紛争が解決するまで、弁護士さんとは長く付き合っていく必要があります。弁護士選びは、自分を信じ、本当に信頼できる弁護士さんを探すことをおすすめします。