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産科医療特別給付事業とは?医学的に合理的ではない個別審査で対象外となった脳性麻痺の子どもたち

2024.07.22

富永愛法律事務所 医師・弁護士 富永 愛 です。
司法試験に合格し、弁護士事務所での経験を積んだ後、国立大医学部を卒業し医師免許を取得
外科医としての勤務を経て、医療過誤専門の法律事務所を立ち上げました。
実際に産婦人科の医療現場を経験した医師として、法律と医学の両方の視点から産科を中心とした医療問題について発信します。


産科医療補償制度の個別審査に阻まれ、補償の対象外となったお子さんとそのご家族の粘り強い活動の結果、救済措置として実現に向け動き出した「産科医療特別給付事業」。

2024年7月16日、運営機構は産科医療特別給付事業についての検討結果を報告書にまとめました。昨年6月に自民党の枠組みが公表されてから、当事務所でも救済の内容や進め方に注目していました。(関連コラム:産科医療補償制度」対象外の子どもの救済策になるか?!自民党の『1200万円案』

今回のコラムでは、どんな場合に対象となるのか、いつから申請できるのか、など産科医療特別給付事業をわかりやすくお伝えしようと思います。

制度改正の前後で生まれた大きな差

障害を持つお子さんを育てていくことは、ご家族にとって精神的・体力的にも大変なことが多い上、経済的な負担ものしかかります。
産科医療補償制度によって、たくさんのご家族が支えられていることは間違いありません。

しかし、2022年に制度が改正される前は、在胎週数や出生体重によって個別審査が設けられており、この個別審査によって補償の対象外とされたご家族は、同じように脳性麻痺のお子さんを育てていかなければならないのに、何の補償もありませんでした。
制度改正によって個別審査は撤廃されましたが、改正前の個別審査で対象外となったお子さん達の救済を求める声が多くありました。

個別審査とは

2021年までに一定の条件(在胎週数、出生体重)で生まれたお子さんは、補償対象となるために「低酸素状態」を示す所定の要件を満たすことが必要でした。この「低酸素状態」を評価するために行われていたのが個別審査です。

一定の条件は、生まれた時期によって異なります。
・2009年~2014年末日までに出生
在胎週数28週以上33週未満または在胎週数33週以上かつ出生体重2,000g未満
・2015年~2021年末日
在胎週数28週以上32週未満または在胎週数32週以上かつ出生体重1,400g未満

本当は補償の対象だったケースが99%?!

以前から個別審査に関して、「医学的に合理的でない」、「同じような病態でも対象と対象外に分かれることがあるなど不公平」、「約50%が補償対象外となっている」などの問題が指摘されていました。
2022年1月に産科医療補償制度の補償対象基準が見直され、個別審査が廃止されたことにより、過去に個別審査で対象外とされたケースを分析した結果、なんと約99%で「分娩に関連して発症した脳性麻痺」だと考えられ、本来であれば補償の対象であったということが判明したのです。

個別審査自体に問題があったことがわかった以上、ご家族からすれば「なぜ対象外とされたのか!」と思われるのも当然で、到底納得できるものではないと思います。

産科医療特別給付事業が実現するまで

実際に個別審査で対象外とされたお子さんのご家族が中心となって、補償が受けられなかった子ども達への救済を求め、国に交渉を続けてこられました。
その粘り強いご活動によって、2023年7月に自民党が厚労省に対して産科医療特別給付事業の枠組みを提案したことで、同年11月、厚労省が産科医療補償制度の運営機関である公益財団法人日本医療機能評価機構へ正式に特別給付事業を委託することになりました。

運営機関では、検討会議を重ね2025年から事業をスタートできるよう準備が進められてきました。

産科医療特別給付事業について

産科医療補償制度の個別審査で対象外とされたお子さんに対して、同制度の余剰金を活用して1200万円の一時金が支払われます。

特別給付の対象者

給付対象基準、除外基準、重症度の基準の3つをすべて満たす場合に対象となります。

産科医療特別給付事業 事業設計検討委員会報告書(案)より抜粋

(1)平成21年(2009年)以降平成26年(2014年)末日までに出生した児
在胎週数28週以上33週未満で出生し脳性麻痺になった児、または在胎週数33週以上かつ2,000g未満で出生し脳性麻痺になった児
(2)平成27年(2015年)以降令和3年(2021年)末日までに出生した児
在胎週数28週以上32週未満で出生し脳性麻痺になった児、または在胎週数32週以上かつ1,400g未満で出生し脳性麻痺になった児
したがって、(1)または(2)に示した期間および在胎週数、出生体重の基準に該当しない児は一律に給付の対象外となる。(産科医療特別給付事業 事業設計検討委員会報告書(案)より抜粋)

個別審査で対象外とされた方だけではなく、個別審査における低酸素状況の要件を満たさないだろうと産科医療補償制度の申請を行わなかった方も対象です。
当時は申請を諦めざるを得なかった方も、給付金を受け取れる可能性があるということです。

病院から賠償金を受け取っている場合は注意が必要

特別給付を申請する上での前提条件が2つあります。特に2つ目は、分娩機関に対して示談交渉や裁判の経験がある方は注意が必要です。

  1. 産科医療補償制度加入分娩機関と妊産婦が補償の契約を結んだうえで、掛金相当分を支払っていること
    これは、出産した分娩機関で産科医療補償制度の登録証を提出していれば大丈夫です。
  2. 現に産科医療補償制度の補償金を受領していないことまたは分娩機関からの賠償金等を1,200万円以上受領していないこと
    ※賠償金等は、分娩機関から支払われる損害賠償金のほか、解決金、和解金等、名称を問わず一切の金銭を含む。
    これは、出産時の医療事故について、分娩機関と示談交渉や裁判をして賠償金を1200万円以上受け取っている場合は、特別給付を申請できないということです。

一般審査と個別審査を混同してしまっていることも…

産科医療補償制度を申請された方の中には、一般審査の過程を個別審査と勘違いしてしまうケースがあるといいます。
例えば、重症度の審査のために「お子さんの歩行状態がわかる動画を提出してください」というような追加の資料提出を求められた場合に、保護者の中には個別審査をされたと思っている方がいるようです。

申請期間

2025年初日から2029年末日
産科医療補償制度の申請期限が満5歳の誕生日(5年間)とされていることから、特別給付事業においても同様にしたようです。

申請に必要な書類

母子手帳の写し

出生届出済証明と出産の状態が記載されたページのコピー

診療録または助産録及び検査データ等の写し

分娩機関から提出されます

特別給付事業請求用専用診断書

  • 脳性麻痺診断書、脳性麻痺の状況および所見、検査結果等
  • 写真、動画等

どこに申請すればいい?

産科医療補償制度と同様に、分娩機関が窓口となって申請を行います。
まずは出産された分娩機関で申請を行いましょう
分娩機関が閉院している場合などは、分娩機関を介さずに直接運営機関に申請が可能です。

1200万円ですべて解決するわけではない

運営機関の事業設計検討委員会では、関係者からのヒアリングが行われ、個別審査で補償対象外となったご家族を中心に活動されている「産科医療補償制度を考える親の会」の方々が特別給付事業に対するお気持ちやアンケート調査の結果をお話しされました。
特別給付事業で救われるご家庭が多くあること、事業設立に携わった関係者に感謝の意を伝えられていましたが、当事者として踏み込んだご意見をされているのが印象に残っています。

「審査に不公平が生じることへの懸念」

個別審査を受けるにあたって過去に運営機関へ申請書類を揃えて提出済みのお子さんが、保存期間を過ぎているなど様々な理由で、特別給付の申請時にカルテが提出できないお子さんよりも不利になるような審査内容には、絶対にしないでほしい。

「救済対象外となった場合でも意義審査に挑める仕組みづくりを」

特別給付事業に申請し、救済対象外となった場合でも、産科医療補償制度と同様に、追加資料の提出や異議申し立てによって再審査が可能な仕組みにしてほしい。
5歳未満の資料で重症度の基準に満たなかった場合でも、再判定時期を設定し再申請可能な仕組みにしてほしい。

「治療によって重症度が快癒している場合は、治療前の状態で審査を」

臍帯血治療やSDR手術※などにより、5歳以降の重症度が快癒(軽くなっている)お子さんは、治療前の身体状態で審査をしてほしい。(産科医療補償制度では、申請後に治療をして快癒しているお子さんにも支給されているケースがあるため)
※SDR(選択的後根切断術)は、脳性麻痺による下肢の痙縮を緩和するための脳神経外科手術です。

「3000万円支給の再度検討を」

「既に給付額は1200万円(非課税)で決定しているものの、今一度、本給付事業を遂行するにあたり『3000万を支給すべきか否か、3000万支給が可能かどうか』も特別給付金事業内で再度検討して欲しい…」

ご紹介したものはほんの一部ですが、申請や審査にかかわるものだけでも10件以上の意見が挙げられ、運営機関側だけの検討では見えなかった問題がたくさん浮彫になりました。
何より、支給開始を先延ばしにすることは絶対にないように、早急な支給ができるようにしてほしいです。

1200万円という金額では、十分な救済とは言い難く、本来受け取ることのできたはずの3000万円との差は現在も埋めることはできていません。

自分たちだけで判断できないことや不安なことがありましたら、産科医療補償制度の相談窓口または、当事務所までご相談ください!

この記事を書いた人(プロフィール)

富永愛法律事務所
医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。

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