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産科医療補償制度の給付金をもらえれば十分ですか?脳性まひになったお子さんや家族は裁判できないの?

2024.02.20

富永愛法律事務所 医師・弁護士 富永 愛 です。
司法試験に合格し、弁護士事務所での経験を積んだ後、国立大医学部を卒業し医師免許を取得
外科医としての勤務を経て、医療過誤専門の法律事務所を立ち上げました。
実際に産婦人科の医療現場を経験した医師として、法律と医学の両方の視点から産科を中心とした医療問題について発信します。


産科医療補償制度では、「分娩機関が重度脳性麻痺について法律上の損害賠償責任を負う場合、本制度から支払われる補償金と損害賠償金の調整を行うこととなっている。」として、補償対象と認定された事案について損害賠償請求の有無などを調査・集計しています。

このコラムでは、産科医療補償制度の補償対象事案の損害賠償請求の現状について解説します。産科医療補償制度で紛争化しているケースがどのくらいあるのか知りたい方、産科医療補償制度が認定されたけれど、分娩機関の対応に疑問が残っていてどうしたらいいのかわからない、などお悩みの方のお役に立てればと思います。

産婦人科の訴訟件数

産婦人科の訴訟件数は年々減少傾向にあります。産科医療補償制度が始まった2009年以降をみると、それまで年間100件を超えていた訴訟件数が2020年には38件と1/2以下になっていることがわかります。

産科医療補償制度創設の目的の中に、紛争の防止・早期解決があります。

制度開始後、産婦人科の医事関係訴訟が減少したことで、産科医療補償制度は紛争の防止に一定の影響があると評価されています。

産科医療補償制度の補償対象に係る損害賠償請求の現状

約4%の事案で損害賠償請求(示談交渉や裁判)が行われている

2023年10月末までに産科医療補償制度の補償対象と認定された4,079件のうち、運営組織において把握している損害賠償請求等の事案は177件と報告されています。
これは全体の4.3%にあたり、内訳は訴訟・裁判が80件、訴訟外の示談交渉が97件となっています。

損害賠償請求とは?

そもそも損害賠償請求って何をするの?と疑問をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。

ここでいう損害賠償請求とは、重度脳性麻痺となった原因が分娩機関の過失によるものであると考えられる場合に、分娩機関に対して金銭による賠償を求めることをいい、その手段として訴訟の提起、調停、訴訟外での交渉を行うことです。

まず、多くの場合は訴訟外での交渉(示談交渉)が行われます。訴訟に至らず話し合いで解決するケースも相当数あります。

そして、分娩機関側からの「責任がない」などの回答があり、話し合いが決裂した場合には、調停や訴訟提起するというのが一般的な流れです。

損害賠償請求事案数の推移

補償対象件数に対する損害賠償請求事案の割合は、2014年以降4%台でほぼ横ばいとなっています。

原因分析報告書送付後に損害賠償請求が行われた事案

補償対象全体からみた損害賠償請求事案の割合は4.3%でした。

では、原因分析報告書が送付されてから損害賠償請求が行われた事案に絞ってみるとどうでしょうか。

2023年10月末までに原因分析報告書が送付された3,749件のうち、原因分析報告書が送付された日以降に損害賠償請求が行われた事案は55件(1.5%)でした。

全体に比べると、少し割合は低くなっています。

原因分析報告書の役割

2021年に実施された原因分析報告書に関するアンケートによると、原因分析が行われて良かったかという問いに対して、71%の保護者が「とても良かった」「まあまあ良かったと」回答しました。その理由として一番多かったのが「第三者により評価が行われたこと」でした。

原因分析報告書は、出産によってお子さんが重度脳性麻痺になり、医療ミスがあったのではないか、仕方がなかったのか、と悩まれているご家族が出産の現場で何が起こったのかを知る大切な手がかりです。

出産時に受けた医療が適切であったとわかれば、分娩機関への不信感が軽減することにもつながります。

そして、反対に報告書で不適切な医療行為だったと評価されていた場合には、法的に責任を追及し賠償してもらうことができるかもしれないということになります。

原因分析報告書の記載内容がわかりにくい…

同アンケートでは、原因分析報告書のわかりやすさについても質問・回答がされています。

分娩機関の回答に比べて、保護者の評価は「どちらともいえない」、「少しわかりにくかった」という回答が多いことがわかります。

これは報告書の記載、特に医学的な内容について「保護者が読んでもわかるような説明になっていない」ということを意味しています。

原因分析報告書の読み方について、原因分析報告書とはのページで詳しく解説していますのでぜひ参考にしてください。

“仕方がなかった”では済まされないケースがあります

日本の周産期医療の水準は世界から見ても非常に高く、産婦人科診療ガイドラインなどには産科医療について細かなルールが作られています。

多くの産科医の先生方が、安全に出産ができるよう努力を続けておられる一方で、“仕方がなかった”では済まされないケースがあるのも事実です。

産科医療LABOでは、出産の医療事故によってお子さんに脳性麻痺が残ってしまった、お母さんに重度後遺症が残ってしまったなどのご相談のほか、産科医療補償制度から受けとった原因分析報告書の記載を見て医療ミスではないかと思っている…といったご相談もお受けしております。

カルテの簡易調査から初回の法律相談までを無料で行っておりますので、お悩みの際はぜひ一度、お問い合わせください。

図・表の引用元

この記事を書いた人(プロフィール)

富永愛法律事務所
医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。

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