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妊娠中の脈拍はどう変わる?心拍数の目安と異常の見分け方を解説

2025.04.24

富永愛法律事務所 医師・弁護士 富永 愛 です。
司法試験に合格し、弁護士事務所での経験を積んだ後、国立大医学部を卒業し医師免許を取得
外科医としての勤務を経て、医療過誤専門の法律事務所を立ち上げました。
実際に産婦人科の医療現場を経験した医師として、法律と医学の両方の視点から産科を中心とした医療問題について発信します。
出産のトラブルでお困りの方は、是非一度お問い合わせください。


妊娠すると、妊婦さんの身体は普段と大きく変わります。脈の変化もそのひとつです。
妊婦さんの脈はどうして変化するのでしょうか? その変化の理由と、脈からわかることなどを解説します。

妊娠中の身体はこんなに変わる

妊娠したあと、身体に訪れる変化は様々です。つわりによる体調不良、大きくなっていくお腹などは傍目にも実感しやすいところですが、その変化は見てわかるところにとどまらず、もっと根本的な部分にも及びます。

たとえばホルモンバランスの変化、血液量の増加、一回に呼吸する空気の量など。今まで安定していた身体の基礎が、ごっそり変わってしまうといっても過言ではありません。

妊娠すると脈(心拍数)が増えるのも、そうした根本的な変化のひとつです。妊婦さんの脈は、妊娠直後から妊娠3カ月に向かってまず急激な増加を見せ、その後しばらく増えたままで落ち着きますが、妊娠7カ月頃にまた急な増加を見せます。

心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン(2018年改訂版)、Robson SC, et al. 1989より作図

成人の平均的な脈拍数は1分間に70回前後、しかし妊婦さんの脈拍は妊娠後期までに平時の20%ほどの回数がプラスされ、80~90回となります。後期には100回以上の頻脈になる方もいます。

どうして脈が増える?

妊婦さんの脈は、なぜ増えるのでしょうか?

このいちばんの理由は、妊娠にともなって血液の量が増えることです。

お腹の赤ちゃんは、お母さんから酸素や栄養をもらって大きくなっていきます。これらを運ぶのは血液なので、妊婦さんの身体は赤ちゃんへの酸素や栄養の供給が問題なく行われるよう、血液を増産します。

また、出産時の出血に対応するためという目的もあります。そして、増えた血液を全身に送り出すために、心臓もいつもよりがんばり始めます。これが、脈が増える大きな理由のひとつです。

ホルモンの影響や子宮の圧迫も・・・

ストレスや、妊娠中の体温を高めに保つホルモン・プロゲステロンなどが自律神経の不調につながって、脈拍の増加をまねくこともあります。妊娠後期の場合には、赤ちゃんのいる子宮が大きくなって、身体の中から心臓や肺を圧迫してくることも影響してきます。

異常によって「いつもより多い脈拍」になることも

貧血による頻脈

たとえば、妊婦さんは貧血になりやすいため、その影響で脈が増えることがあります。

「妊娠すると血液が増えるのに貧血?」と思われるかもしれませんが、実は血液が増えるといっても成分ごとの増え方は一定ではなく、血球(細胞成分)より血漿(液体成分)のほうがより大きく増加します。

紅茶にお湯を足すと薄まるのと同じで、血漿が大きく増えた妊婦さんの血液は相対的に血球が少なくなり、薄まった状態になります。

脈拍は妊娠によって普段より増えるものですが、その時期の普通を超えて「いつもより速く多い」「ドキドキする」などと感じるときは要注意。
その場合は、何らかの異常によって脈が増えているのかもしれません。

妊娠中は赤ちゃん優先で運ばれる鉄分

酸素を運ぶ血中成分・ヘモグロビンの合成に必要な「鉄」は、赤ちゃんの成長にも必要なため、妊娠中は赤ちゃんに優先供給されることになっています。

ただでさえ血液が薄くなっているのに、鉄不足でヘモグロビンまで少なくなってしまうと、身体は日常的に酸素不足になります。それを補おうとして心臓ががんばることが、脈拍の増加へとつながります。

貧血に関するコラムはこちら

感染症

また、一般に、熱が出るような感染症になると脈が増えます。妊婦さんの場合は、子宮内の感染もありえます。1分間に100回を超える頻脈に、発熱やお腹の痛みが重なっているときは、すぐに受診することをおすすめします。

お薬の影響

なお、妊娠中よく処方される薬に切迫早産の治療薬・リトドリンがあります。リトドリンには子宮の張りを抑える作用がありますが、副作用として動悸や頻脈が起こることがあります。

リトドリンにはその他にも様々な副作用があって、近年長く飲み続けることの問題点が指摘され始めていますので、気になるときは我慢して服用を続けず、直ちに医師に相談しましょう。

妊娠で発症する心臓病・周産期心筋症も

ごくまれですが、妊娠中に心臓のポンプ機能が低下し、心不全(心臓が十分な血液を送り出せない状態になること)になる方がいます。妊娠前には何も問題がなく、妊娠をきっかけに発症するため「周産期心筋症」と呼ばれます。

心不全のサインは、少し動くだけで動悸がする、息が切れる、身体がむくむ、などです。
妊娠後期にさしかかる妊婦さんにも似た症状が現れるので「こういうものかな」と見過ごしてしまいがちですが、心不全の場合はそのままにしていると症状が進み、やがて横になると息苦しくて眠れなくなったりします。

普通に動いているだけなのに鼓動が速くなる、息切れや息苦しさがどんどん強くなる……こうした場合は、「こういうものかな」と思わず、早めに医師に相談してください。

脈のとりかた

脈拍は自分で測ることもできます。

自分の脈の回数やリズムを知っておけば、「時々、脈が飛ぶような気がする」「いつもより多い」……といった異常にすぐ気づけます。

同じやり方で、家族をはじめ他の人の脈をとることもできます。ぜひ試してみてください。

自分の脈のはかり方

  • 片手を上に向ける。
  • もう一方の手の人差し指・中指・薬指をそろえ、手首の付け根に薬指が当たるようにして、親指の付け根の手首に当てる。
  • 脈を感じる位置がみつかったら、15秒間、脈拍を数える。(15秒×4=1分間の脈拍数)

妊娠中の脈拍は増えるもの。でも、異常な増え方には注意を

妊婦さんの脈が増えるのはごく当たり前の変化。でも時には異常が隠れていることもあります。もし気になったら小さなことでも受診するか、健診時に相談してみてください。

健康チェックのひとつとして、自分の脈をとるのを習慣にしてもいいかもしれませんね。

この記事を書いた人(プロフィール)

富永愛法律事務所
医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。

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