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妊娠高血圧症候群とは?赤ちゃん・お母さんへの影響は?
妊娠期間は赤ちゃんの誕生を心待ちにしながら過ごす幸せな時間である一方、
体調や気持ちが不安定だったり、どこかしらに不調を感じながら過ごしている妊婦さんも多いのではないでしょうか。
実際に体に異常が出てしまい、妊娠特有の病気を発症することは珍しくありません。
この記事で紹介する「妊娠高血圧症候群」は妊婦さんの約20人に1人の比較的高い割合で起こる病気です。
「妊娠高血圧症候群と診断されたけど、どんな病気?」
「妊婦健診で血圧を測るのはなぜ?」
「赤ちゃんにはどんな影響があるの?」
「妊娠高血圧症候群に関わる医療ミスの相談はできる?」
など疑問をお持ちのお母さんやご家族に病気の解説とともに、当事務所で実際に担当した妊娠高血圧症候群に関する訴訟事例もご紹介します。
妊娠高血圧症候群とは?
妊娠の影響で起こる高血圧のことです。
「最近の研究では、お母さんから赤ちゃんに酸素や栄養を補給する胎盤がうまくできないため、胎盤で様々な物質が異常に作られ全身の血管に作用し病気を引き起こすのではないかと言われています。」※日本産婦人科学会HPより抜粋
妊婦健診でチェックされるむくみやたんぱく尿が重要な症状といわれていますが、これらの症状があるからといって必ずしも妊娠高血圧症候群というわけではありません。(たんぱく尿とは、尿中に蛋白が1日当たり0.3g以上出ること)
妊娠前の血圧に関係なく起こり、お母さんだけでなく赤ちゃんにも影響がある病気です。特に妊娠34週未満で発症する早発型は重症化のリスクが高いといわれています。
お母さんの症状は?
妊娠高血圧症候群の症状は高血圧とたんぱく尿です。ほとんど自覚症状がなく、妊婦健診で発見されることが多いです。
妊娠高血圧症候群にはどんな種類がある?
- 妊娠高血圧症
妊娠20週以降に初めて「高血圧のみ」発症する場合。 - 妊娠高血圧腎症
「高血圧」に加えて「たんぱく尿」を認める場合。
妊娠20週以降に初めて高血圧を発症し母体の臓器障害、または子宮胎盤機能不全を認める場合。 - 加重型妊娠高血圧腎症
高血圧が妊娠前または妊娠20週までにあり、たんぱく尿だけでなく母体の臓器障害、または子宮胎盤機能不全を認める場合。もともとの高血圧にたんぱく尿が起こる、重症な場合。 - 高血圧合併妊娠
高血圧が妊娠前または妊娠20週までにある場合。
なりやすい人(リスクが高い人)
妊娠前の要因
- 年齢が35歳以上
- 妊娠前から高血圧や糖尿病などの内科疾患がある
- 家族に高血圧または妊娠高血圧症候群の既往歴がある
- 肥満
妊娠に関連した要因
- 前回の妊娠時に妊娠高血圧症候群になった
- 多児妊娠
- 体外受精などの生殖補助医療を受けて妊娠した
- 初産
妊娠高血圧症候群の治療法は?
妊娠高血圧症候群の一番の治療法は出産です。
胎盤による影響なので、妊娠が終了して胎盤がなくなるとお母さんの症状は急速に改善します。母体の安全のため、出産予定日を待たずに妊娠を終了させることが唯一の治療です。
とは言っても、できるだけ長く赤ちゃんをお母さんのお腹の中で育ててあげなければならないこともあります。
そのために、医師は可能な限り妊娠期間を延長して、赤ちゃんの発育を待つことと、お母さんと赤ちゃんの命に関わる合併症を起こさないよう、適切な時期に妊娠を終了させることのバランスを、慎重に見極める必要があります。医師とよく相談して進めていくことになります。
出産以外にどのような治療法があるのでしょうか。
基本は、入院してお母さんと赤ちゃんの状態を管理することが望ましいとされています。
降圧剤を使用して血圧を管理しますが、急に血圧を下げると赤ちゃんの状態が悪くなることがあるため、医師が慎重に判断し、薬を調節する必要があります。
お母さんご自身ができることは、安静と食事療法です。食べ過ぎに注意し、バランスの良い食事を心がけましょう。
次の妊娠はできる?
妊娠高血圧症候群になりやすい人(リスクが高い人)として、「前回の妊娠時に妊娠高血圧症候群になった」ことが挙げられます。この病気の既往歴が次の妊娠に影響する可能性は高いとされています。
そのため、一度妊娠高血圧症候群といわれたことがあって、妊娠を希望する場合はハイリスクであることを念頭に置き、高次医療機関での出産を検討したり、妊娠後は体調の変化に特に注意をしましょう。
産後の経過
出産後はお母さんの症状は速やかに軽快し、もともと症状が軽かった方はあまり心配ないでしょう。しかし、合併症を発症したり、重症であった方は産後も特に注意が必要です。
出産後も高血圧が続く場合は、授乳中でも服薬できる降圧薬を処方されることもあります。
退院後は、ご家庭での血圧測定を継続し、気になる症状があれば早めに医師へ相談することをおすすめします。
妊娠高血圧症候群がどのような病気なのか、少しおわかりいただけたでしょうか?
なぜ妊婦健診に行くと毎回血圧を測る必要があるのか、その理由が分かったと思います。この病気は、重篤な合併症のリスクを軽視するととても危険です。
しかし、不安が先行してお母さんの心身にストレスとなることは良くありません。小さな異変に早く気付くことができるよう、病気への知識があると安心ですね。
産婦人科医たちは、合併症や赤ちゃんへのリスクを常に念頭に置いて、安全な出産に向けて準備をしています。
しかし残念ながら、妊娠中の管理や合併症が発生した際の処置が不適切であったがために、医療事故につながってしまうケースがあるのも事実です。
次にご紹介するのは、当事務所で実際に担当した妊娠高血圧症候群にかかわる訴訟事例です。
妊娠高血圧症候群に関する訴訟事例
妊娠高血圧症候群に対して必要な管理が不十分で子癇発作(けいれん)発症、お母さんに低酸素脳症による後遺症が残り2億円以上の和解が成立した事例
事例の概要
妊娠高血圧症候群ため入院し、分娩誘発を行っている途中に血圧が上昇しました。降圧薬の処方が不十分であったがために子癇発作(けいれん)を引き起こし、呼吸停止に至りました。その間、病院側は吸引分娩を繰り返すなど母体最優先の対応をせず低酸素状態は14分間、心停止は8分にもおよび、結果としてお母さんは低酸素脳症により寝たきりの状態となりました。
ご主人からのご相談を受けて詳細にカルテを検討し、病院側に話し合いでの解決を提案しましたが、病院側から責任がないとの回答があったため、提訴することになりました。
訴訟の結果
病院側は、入院してから血圧が高かったのは、医療機器のエラーだったとか、血圧管理はしていた、などど主張しました。それに対して、医学的問題点の指摘、文献や大学病院に勤務している産婦人科医の協力を得て意見書を提出しました。3年におよぶ主張・立証活動を行った結果、裁判所からこちらの主張をほぼ認める内容の和解勧告が出され、勝訴的和解に至りました。
富永弁護士のコメント
妊婦さんの高血圧は様々な問題を引き起こすことがあり、産婦人科医にとっては非常に重要な情報です。今はガイドラインによって正しい血圧管理の方法が決められていますし、合併症になっても、正しい治療法が示されています。高血圧を見逃して、正しい対応をしないとお母さんにも赤ちゃんにも大変なことが起こってしますのです。
妊婦健診のとき、心配があれば医師に積極的に相談して、赤ちゃんだけでなく自分の体のことも知ることが大切だと思います。
出産時にお母さんや赤ちゃんに障害が残ってしまった、出産でお母さんや赤ちゃんが亡くなった、など産婦人科に関わる医療事故でお悩みの方は、一度ご相談ください。
この記事を書いた人(プロフィール)
富永愛法律事務所医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)
弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。