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逆子をなおす外回転術、どんなリスクがある?

2024.07.13

富永愛法律事務所 医師・弁護士 富永 愛 です。
司法試験に合格し、弁護士事務所での経験を積んだ後、国立大医学部を卒業し医師免許を取得
外科医としての勤務を経て、医療過誤専門の法律事務所を立ち上げました。
実際に産婦人科の医療現場を経験した医師として、法律と医学の両方の視点から産科を中心とした医療問題について発信します。


2024年7月11日、逆子をなおすための外回転術を受け、お子さんに重度の障害が残った事故で、ご家族が産婦人科医に対し刑事告訴を決めたというニュースが報じられました。

この事故では、産婦人科医が外回転術後に、赤ちゃんの心拍に異常があったにもかかわらず、二度目の外回転術を実施するという信じられないことが行われていました。
さらに施術後、胎児心拍数陣痛図(CTG)上には、赤ちゃんの低酸素状態を疑う所見が何度も認められていたのに、2日間も放置し、別の医師が2日後に緊急帝王切開を実施して産まれた赤ちゃんは、脳に重大なダメージを受けて、四肢まひやてんかんなどの重度の後遺症が残りました。

このニュースで注目された、「外回転術」とはどんな方法で、どんなリスクがあるのでしょうか。

逆子は医療用語では「骨盤位」とよばれ、骨盤位を矯正する方法として胸膝位指導(膝を立てて胸を低くする姿勢で赤ちゃんが回転してくれるよう促す体操)、鍼灸療法、外回転術などがあります。
しかし現在のところ、研究結果などによって効果が認められているのは外回転術のみといわれています。

では、外回転術とは実際どのように行われているのか、リスクにも触れながらご説明します。

骨盤位外回転術とは

骨盤位外回転術とは、逆子(骨盤位)となっている胎児を、お腹の外から回転させ、頭位(頭が下向き)にする方法です。
施術後の経過観察のために、入院して行います。

手技

頭が下になるようにベッドを斜めにし、妊婦さんは横になります。エコーで赤ちゃんの向きを確認し、お腹の外から赤ちゃんの頭とおしりを支えて、前回りに回転させます。(場合によって後ろ回りになることもあります。)
赤ちゃんの心拍に異常がないかモニタリングしながら行います。
この時、赤ちゃんが回りやすいように、お母さんのお腹を緩めて子宮の収縮を抑える点滴を行い、痛みを和らげるための麻酔を使用する場合もあります。

「妊娠中の管理と骨盤位矯正法(竹田義治・中林正雄)産科と婦人科 第72巻4号」より引用

所要時間は、2~3分ほどと短く、長くても10分程度で終了するべきだといわれています。

成功率

外回転術の成功率は約50%といわれています。
初産婦さんより経産婦さん、麻酔「なし」よりも「あり」の場合に、成功率が高いという報告があります。

実施する時期

妊娠36週~37週

赤ちゃんがある程度成熟した妊娠36週から妊娠37週までに行うのが良いとされています。
その後は、出産が近づいて羊水が減少し、赤ちゃんが骨盤内に入り込んでしまうため回転しにくくなり、実施が難しくなります。

逆子は、妊娠35週を過ぎると、自然に頭位に戻る可能性が低くなります。
妊娠37週以降では頭位に戻る確率は7~8%といわれています。

そのため、だいたい妊娠34~35週の時点で逆子の場合、帝王切開の説明と、外回転術を実施している分娩機関であれば、外回転術の希望があるか確認をされることが多いようです。

逆子のままだとどうなるの?

逆子の場合、出産方法は帝王切開が多く選択されています。
経腟分娩ができないということではなく、頭位に比べ逆子での経腟分娩はリスクが高くなるからです。そのため、骨盤位娩出術(逆子のまま経腟分娩を行う方法)への十分な技術を持つスタッフが常駐し、妊婦さんがメリットデメリットについて同意している場合にのみ経腟分娩が選択できますが、リスクの説明が不十分であると、妊婦さんが正しく判断できないこともあります。万が一のリスクについて、きちんと医師から説明を受けるようにしましょう。

外回転術を実施するときの条件

産婦人科診療ガイドライン2023は、外回転術を実施してもかまわないが、実施するなら以下の条件を満たしていることを確認するよう推奨しています。

  1. 前置胎盤や胎児機能不全などの経腟分娩の禁忌がない
  2. 緊急帝王切開が可能である(準備をしておくということ)
  3. 児が成熟している(妊娠36〜37週の大きさになっている)

なぜ、緊急帝王切開の準備や、赤ちゃんが成熟していることが条件となっているのでしょうか。
それは、外回転術に伴うリスクが関係しています。

外回転術のリスク

外回転術をして、赤ちゃんやお母さんに起こるかもしれない「リスク」は、主なものとして7つあります。

  1. 常位胎盤早期剥離
  2. 胎盤血腫・絨毛膜下血腫
  3. 一過性の胎児心拍の低下
  4. 臍帯下垂、
  5. 母子間輸血症候群
  6. 前期破水
  7. 陣痛発来 など

1.常位胎盤早期剝離や、3.赤ちゃんの心拍が低下して戻らないような場合には、緊急帝王切開ですぐに赤ちゃんをお腹から出してあげる必要があります。6.破水や7.陣痛が始まってしまう可能性もあるため早産のリスクもあります。

そのため、ガイドラインでは外回転術を行うとしても、赤ちゃんが成熟していて、何かあってもすぐに帝王切開が可能な状態にした上で行うようにと定めているのです。

事故を防ぐために大切なのは何か

胎児心拍数モニタリングの重要性

外回転術中は、赤ちゃんが苦しいサインを出していないか注意しながら行われます。赤ちゃんに徐脈(脈拍が少なくなること)がみられた場合は一旦施術をストップし、心拍数が正常に回復するのを待つ必要があります。

一時的に心拍数が下がる一過性徐脈は全体の20%ほどでみられるようですが、ほとんどはお母さんのお腹への圧迫を開放すると回復します。

一時的な低下にとどまらず徐脈が続く場合は、危険なサインです。

また、施術後の入院中は定期的に赤ちゃんに異常がないかを観察するため、胎児心拍モニターをつけて心拍を確認します。
妊婦さん自身がわかるサインとしては、お腹の張りや、痛み、違和感があれば医師やスタッフにすぐに知らせましょう。

冒頭の刑事告訴のケースは、施術中から施術後の経過観察中も、赤ちゃんの心拍数に基線細変動が減少するという最も危険なサインががあったにもかかわらず、大丈夫だと判断されてしまい、なかなか帝王切開を実施しなかったことから事故につながってしまいました。

外回転術後に徐脈となり帝王切開で生まれた赤ちゃんが脳性麻痺となった事例

これまでにも、産科医療補償制度が公開している原因分析報告書では、外回転術による脳性麻痺の事例が掲載されています。

あるケースでは、1回目、2回目の外回転術中に赤ちゃんの徐脈が発生していましたが、エコーで心拍数の回復を確認して大丈夫だと考えて、外回転術を再開していました。

3回の外回転術で逆子をなおすことに成功しましたが、その直後から徐脈となり、その後も徐脈は回復することなく、胎児機能不全と診断されました。

赤ちゃんの心臓は、正常であれば私たち大人の2倍ぐらいの速さで1分間に140回ぐらい拍動しています。徐脈というのは、その心臓の動きがトントントンという小刻みなリズムから、どーんどーんとゆっくりになることで、赤ちゃんが酸素が届かず苦しいよーと訴えるサインです。

徐脈発生から34分後に帝王切開が行われましたが、生まれた赤ちゃんには脳性麻痺の後遺症が残りました。

脳性麻痺発症の原因

原因分析報告書には、脳性麻痺になった原因についてこう書かれています。

本事例における脳性麻痺発症の原因は、1回目の外回転術開始から胎児低酸素状態が生じ、一時的に回復した可能性はあるが、3回目の外回転術施行から分娩までの間は低酸素状態が存続し、いずれかの時点で低酸素・酸血症の状態となりそれが分娩まで持続したことから出生後に低酸素性虚血性脳症を発症したことと考えられる。低酸素・酸血症の原因として臍帯(へその緒)血流障害が考えられる。

産科医療補償制度HP 過去の原因分析報告書 事例番号260115

これは、外回転術によって、へその緒の血流が妨げられ、赤ちゃんの低酸素状態が分娩まで続いたことで低酸素性虚血性脳症という重大な障害を引き起こし、脳性麻痺発症に至ったという意味です。

原因分析の評価

原因分析報告書では、病院の対応についても以下のように評価されています。

1回目の外回転術実施中に胎児徐脈が出現した際に外回転術を一旦中止したとされており、この対応は一般的である。しかし、この時、胎児心拍数モニタリングなどで胎児の健常性を確認せずに2回目の外回転術を実施したことは一般的でない

産科医療補償制度HP 過去の原因分析報告書 事例番号260115

「一般的ではない」とは、産婦人科医達が一般的に考える対応でなはい、つまり産婦人科診療ガイドライン等に沿った診療行為が行われていない、という評価です。

徐脈が出現したときに、エコーをお腹にあてて簡易的に心拍を確認するだけでなく、お腹にモニターを巻きつける胎児心拍数モニタリングによって、赤ちゃんに異常がないかを確認すべきだったということです。

十分な説明を受け、リスクを理解をしましょう

ここまでお話ししたように、外回転術にはある一定のリスクもあるのです。
逆子をなおし、帝王切開せず経膣分娩ができるというメリットはあります。

しかし、当事務所にも、外回転術を受けてお子さんに障害が残ってしまったという相談が今までに何件もありました。

十分な準備をして、安全に行えば重篤な合併症の発生率は低いことが報告されており、逆子による帝王切開を回避するためには有効な方法ですが、帝王切開と外回転術の両方について妊婦さんとご家族で事前に十分な説明を受け、リスクも納得した上で選択することを強くおすすめします。

若手の産婦人科医によっては、冒頭のニュースに関して「まだこんなことやっているのか…」ということを言われる方もおられるようです。

この記事を書いた人(プロフィール)

富永愛法律事務所
医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。

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