脳性麻痺(のうせいまひ)とは?
脳性まひとは?
脳性まひの
定義
受胎から生後4週間以内の新生児までの間に生じた、脳の非進行性病変に基づく、永続的な、しかし変化しうる運動および姿勢の異常です。その症状は満2歳までに発現します。進行性疾患や一過性運動障害、又は将来正常化するであろうと思われる運動発達遅延は除外します。(厚生省脳性まひ研究班 1968年)
上記の症候群を言い、将来的に治るものでも、進行していくものでもありません。
人は体を動かすとき、脳の神経細胞から筋肉に電気信号を送っています。何らかの原因で脳が損傷されてしまうと、電気信号が筋肉にうまく伝わらなくなるため、思うように体が動かせなかったり、姿勢を保つのが難しくなったりといった運動障害が現れます。運動障害の症状は脳の損傷部分や範囲によって、どんな症状になるのか、どのような範囲で現れるのか、個人差が大きいものになります。
脳性まひの症状は?
脳性まひの主な症状には、手足の麻痺、体が硬くなる、反り返りが強くなる、手足が意図せずに動く(不随意運動)、バランスが悪くなるなどの症状がありますが、運動野以外の脳の部位も損傷を受けている可能性があるため、知的発達障害、嚥下障害(えんげしょうがい)、視覚障害、難聴、情緒の問題がみられることもあります。 脳の損傷部位によって、脳性まひは大きく4つの型に分けられます。ただし、脳の一部分だけ損傷を受けるということはまれで、混合型であることが多くなっています。
痙直型
大脳基底核
アテトーゼ型
運動失調型
痙直型(けいちょくがた)
痙直型は筋肉が緊張して体が突っ張り、こわばったような状態を引き起こします。脳性まひの70%~80%が痙直型と言われています。
症状のある腕や脚は発育が悪くなり、筋力の低下を引き起こします。股関節や膝が曲がるなどの症状が現れ、歩行に困難をきたす場合もあります。
筋肉のこわばりは様々な部位に生じ、まひの起こる部分によって下記のように呼ばれます。
四肢まひ
(両腕and両足)両まひ
(両腕or両足)片まひ
(右腕and右足/左腕and左足)
対まひ
(両足)また、片目がちらついたり、左右の目で視線が交差するなどの症状が現れる斜視など、視覚障害が現れることもあり、四肢麻痺がある子どもではけいれんや嚥下困難、知的発達障害を伴うことが多くあります。
アテトーゼ型
アテトーゼ型では、自分の意思とは関係なく手足や体幹の筋肉が勝手に動く不随意運動が見られます。体がよじれるようにゆっくり動く場合もあれば、突然動いたり、断続的に動く場合もあります。
アテトーゼ型では筋肉の緊張度合が自分の意志に反して変わってしまうのが特徴です。急に足に力が入らなくなって倒れてしまったり、反対に急に腕がピーンと張ってしまったりといったことが起こります。感情の興奮による脳への刺激によっても意図しない体の動きが生じることがあります。
また顔面の不随意運動が現れると口がうまく動かせなくなり、話し方がぎこちなくなる、構音障害が起こることもあります。
運動失調型(弛緩型)
運動失調型は物に手を伸ばした時に細かく震えるなど、身体の動きをうまく調整することができない状態が生じます。手足の震えや、体のバランスが悪くなるなどの症状が現れるため、早い動作や物を掴むなどの細かく正確な動作が困難となります。
混合型
混合型は、上に述べた病型のうち2つ以上が複合したもので、多くが痙直型とアテトーゼ型の混合型です。この混合型は、脳性まひの小児によくみられます。それぞれの典型的な運動障害のほか、重度の知能障害を伴うこともあります。
赤ちゃんの障害はどうやってわかる?
脳性まひの赤ちゃんには体が反り返りやすい傾向があります。しかし、明らかに分娩時に異常があり、まひが見られるなどの場合を除き、一般的には早期発見はとても難しいものです。なぜなら運動機能は成長過程でできるようになっていくものがほとんどであり、また成長の度合いは個人差がとても大きいからです。
通常脳性まひは1年間ほど経過を観察して判断していきます。首すわり(3~4か月)、お座り(7~8か月)を目安に発達が遅いこと、分娩時に異常があったことなどを総合的に判断して、異常を疑います。
乳児には1か月健診、6か月健診、1歳健診など、運動発達を確認していく乳児健診があるため、健診で経過を観察する過程で発達の遅れやいびつさから脳性まひを疑っていくことも多くあります。
脳性まひの診断は主に下の3つの項目から総合的に行います。
脳の画像検査
MRI、CTを使用し、
脳の状態を検査します。
出生歴の調査
分娩時の異常や感染症など、
出生歴を調査します。
赤ちゃんの診察所見
発達の遅れや筋緊張の程度、
身体のバランスを取る「姿勢反射」の
異常の有無などを調べます。
また、筋肉に原因があるなど他の病気の可能性もあるため、それを見極めるために血液検査、神経と筋肉の電気生理学的検査、遺伝子検査なども行われることがあります。 脳性まひの疑いが持たれた場合、脳の画像検査(CT、MRI)を行います。脳の変形など、症状の原因になる大きな異常があれば、この検査で検出できます。しかし、MRIは痛くはありませんが、かなり大きな音がして、狭い器械のなかで20~30分くらいは動かずにじっとしていなければなりません。そのため、鎮静剤を使用して赤ちゃんを眠らせて検査を行うことがほとんどです。MRIの撮影はこのように大がかりな検査になり、赤ちゃんには負担が大きいものになるため、多くは成長過程を観察しながら慎重に診断していくものになります。
脳性まひの原因は?
脳性まひの原因は多岐にわたります。分娩時の代表的な原因を紹介します。
赤ちゃんの低酸素状態
(新生児仮死/低酸素性虚血脳症)
分娩時に何らかの原因で赤ちゃんの脳に酸素や血液がうまく行かない状態(虚血)が続くと、脳細胞が死滅し、脳に損傷が起こります。
低酸素状態を引き起こすものとしては、下記のような要因があります。
胎盤剥離
赤ちゃんが生まれる前に胎盤がはがれてしまう状態です。胎盤がはがれると赤ちゃんに酸素が届かなくなるため、低酸素状態を引き起こします。
常位胎盤剥離を引き起こす原因として、妊娠高血圧症候群(PIH)にも注意が必要です。
過強陣痛
陣痛の間隔が通常よりも狭い状態です。子宮収縮に伴って、赤ちゃんへの血流が阻害されるので、赤ちゃんの低酸素状態を引き起こす恐れがあります。
子宮破裂
子宮が裂けた状態。子宮破裂を引き起こす要因としては、多児妊娠、巨大児、過強陣痛、クリステル胎児圧出法などがあります。
羊水塞栓症
子宮の損傷等によって血管が傷付き、そこから羊水や羊水に含まれている胎脂や胎便等が流入することが原因で、物理的に血管をふさいでしまったり(塞栓)、アレルギーのアナフィラキシー反応のような症状を引き起こします。羊水塞栓症を発症すると、お母さんに胸痛、呼吸困難、意識消失、けいれん、性器からの大量出血等の症状を生じ、処置が遅れると赤ちゃんが低酸素状態になります。
臍帯圧迫
(臍帯脱出・臍帯過捻転)へその緒がからまったり、子宮外に飛び出したりしている状態。へその緒の血管が圧迫されてしまい、赤ちゃんに酸素が行かなくなってしまいます。
分娩時の感染症
分娩時のウイルスに感染が原因で脳炎を起こし、脳に損傷が起こります。
ヘルペス感染症
ヘルペスウイルスに感染することで起きる感染症です。ウイルスが脳に達すると、脳炎を起こし(ヘルペス脳炎)脳細胞を破壊する恐れがあります。
GBS感染症
B群溶血性連鎖球菌(GBS)に感染することで起こる感染症です。GBSは、腸や腟などに存在する常在細菌の一種で、成人が感染しても無症状であることが多いですが、新生児に感染すると髄膜炎などを起こし、脳性まひにつながる場合があります。
脳性まひは治る?
脳性まひは脳が損傷してしまっているので、損傷してしまった部分が直接的に治ることはありません。しかし赤ちゃんは日々ものすごいスピードで成長しています。脳は一部の機能が欠損していても、他の部分でそれを補おうとする働きがあります。根治療法はありませんがリハビリテーションや、筋緊張や不随意運動に対する薬物療法などを行うことで、日常生活の様子が改善することがあります。
脳性まひと診断されたら何をすれば良い?
まずは、産科医療補償制度を申請しましょう。産科医療補償制度とは、日常生活を送るための基盤となる設備の準備費用や日々の介護費用など、総額3000万円を補償してもらえる制度です。産科医療補償制度については「産科医療補償制度ついて」のページで詳しく紹介しています。
脳性まひの治療・療育はどんなものがあるの?
脳性まひの症状は人それぞれのため、治療法も多岐にわたります。また、脳性まひの方はてんかんや視覚障害、聴覚障害、知的障害などのさまざま合併症を合わせ持つことが多いため、それらの障害を考慮した、一人ひとりに合わせた治療法やリハビリテーションが必要となってきます。 脳性まひの治療には、大きく分けて、投薬などの内科治療、手術などの外科治療、リハビリテーションの3つがあります。一般社団法人日本小児神経学会の提示している内科、外科的治療法を提示します。下記治療法は一部分であり、日々医療は進化しています。主治医と協力して、その子にあった治療法を見つけることが重要です。
内科治療・外科治療
経口筋弛緩薬
からだ全体の筋緊張が強い場合、最初に試みるべき治療です。ジアゼパムとチザニジンが比較的有効で、経口バクロフェンもしばしば投与されます。これらは中枢神経に作用するため、眠気やよだれなどの副作用に注意します。ダントロレンは筋肉に直接作用し、筋肉の収縮力を弱めますが、肝臓障害の副作用に注意します。
ボツリヌス(ボトックス)療法
筋肉内にある運動神経の末端の働きを麻痺させ、筋肉を弛緩させます。薬液は注射した筋肉だけに作用します。筋肉の過剰な緊張が本人の運動発達を阻害したり日常生活での介助のしにくさにつながっているような場合には、下肢(つま先立ちやハサミ足など)、上肢(腕の曲げ伸ばしのしにくさや指の開きにくさなど)、頚部や背中(くびやからだの反り返りなど)の筋肉に対してボツリヌス療法が考慮されます。重篤な副作用は少なく比較的安全な治療ですが、治療効果は一時的で、投与量が少ないと2~3か月、充分量でも4~6か月位で効果が切れますので、4~6か月おきに治療します。
脊髄後根切断術
足の感覚神経を、脊髄に近いところで切断し、足の筋緊張を軽減する手術です。切断する神経は、運動神経ではなく、筋肉の収縮状態を伝える感覚神経ですので、運動麻痺は起こりません。ボツリヌス療法では改善が不十分な下肢の強い筋緊張に適応され、3~9歳の時期に手術します。一度手術すれば、永続的に効果が持続します。
バクロフェン髄腔内投与療法
バクロフェンの薬液が入ったポンプをからだに埋め込み、カテーテルを通じて脊髄周囲に薬液を送り、筋緊張を軽減させます。経口バクロフェンの1/100の量で有効なため、眠気などの副作用はありません。からだ全体に強い筋緊張がある、激しい運動の少ない小児に適応され、身長100cm程度の体格になれば導入できます。薬液の補充は毎3か月、電池切れによるポンプの入れ替えは毎6~7年に行います。副作用には、まれに金属アレルギー対応、カテーテルが閉塞した場合の発熱などがあります。
訓練を含めた一般的留意点
上記の治療は、筋緊張を軽減しますが、運動麻痺を治す治療ではありません。
2022年12月 日本小児神経学会広報交流委員会QA部会
【一般社団法人 日本小児神経学会 https://www.childneuro.jp/】
https://www.childneuro.jp/modules/general/index.php?content_id=18
リハビリテーション
また上記抜粋にも書かれていますが、脳性まひには日々のストレッチなどのリハビリテーションが重要となってきます。
脳性麻痺のリハビリの目的は、姿勢と運動コントロールの発達を促しながら、関節の拘縮や変形を予防することです。
リハビリテーションには下記のような訓練があります。
理学療法
理学療法には、様々な運動を行い、固まった筋肉をほぐして運動や姿勢の障害を改善させる「運動療法」、電気刺激やマッサージ、温めたりすることによって、痛みの緩和、むくみ・循環の改善、運動療法を効果的にする「物理療法」を併せて行います。
作業療法
理学療法で改善された動きを、日常生活での動きに応用する訓練です。スプーンの持ち方や、布団からの起き上がり方など実際の生活で必要になってくる動作を訓練します。
言語療法
脳性まひのお子さんには、ことばの理解・記憶の部分に困難がある場合もありますが、同時に、運動まひとしての問題、つまり、発語するための口唇の動き、顎、舌の動き、呼吸との調節などに困難さがあることが特徴です。それは、摂食機能、つまり栄養摂取の困難さとして最初にあらわれます。
言語聴覚療法はまず、口腔器管の運動まひによる食物の咀嚼、嚥下の機能改善から取り組みをはじめます。
補助具による訓練
補助具を使用することによって、身体を支える面積を増やし安定性を増す訓練です。関節を固定するなど姿勢の保持を手助けし、食事や歩行などの訓練を行います。
受けられる支援・サービスには
どんなものがあるの?
障害児が利用できる福祉サービスに、「障害者総合支援法」のサービスと、「児童福祉法」のサービスがあります。
障害者総合支援法では自治体から訪問介護や自立訓練などのサービスを受けることができます。また、身体機能を補うための補装具(補助具)の制作や貸与、外出や地域との交流のサポートなどの地域生活の支援があります。
児童福祉法では、自治体の指定事業者が運営する施設で支援サービスを受けることができます。発達支援や放課後デイサービスに通うことができる障害児通所支援や、施設に入所して治療を受けることができる障害児入所支援などがあります。
支援内容や申込方法などは障害の程度や自治体によって変わってくるため、詳しくはお住まいの市町村にお問い合わせください。
障害を持つお子様の親御さんは将来、子どもが自立した生活を送れるのか、心配になる方も多いと思います。リハビリを行って自分でできることを増やしていくことはもちろん重要です。しかし、すべてを一人でできるようになる必要はないのです。
お子様が生活しやすいように住環境や道具を整えたり、周りに頼れるコミュニティを持つことも、自立に近づく大きな一歩となります。