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妊婦(母体)死亡の原因にもなる!知っておきたい常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり)

富永愛法律事務所 医師・弁護士 富永 愛 です。
司法試験に合格し、弁護士事務所での経験を積んだ後、国立大医学部を卒業し医師免許を取得。
外科医としての勤務を経て、医療過誤専門の法律事務所を立ち上げました。
実際に産婦人科の医療現場を経験した医師として、法律と医学の両方の視点から産科を中心とした医療問題について発信します。
出産のトラブルでお困りの方は、是非一度お問い合わせください。
常位胎盤早期剝離 (早剝)は、お母さん、赤ちゃん両方にとって、命にかかわるとても危険な病気です。重症の場合には、母子の死亡にもつながります。ここでは常位胎盤早期剝離の症状、治療、起こったときはどうしたらいいのかなど、あらかじめ知っておきたい情報をまとめてご紹介いたします。

常位胎盤剥離とはどんな病気?
常位胎盤剥離とは、子宮の壁に張りついている胎盤が、赤ちゃんが生まれる前になんらかのアクシデントではがれてしまう病気です。
胎盤は、酸素や栄養を赤ちゃんに届ける、老廃物の浄化など、お母さんと赤ちゃんのやりとりを仲介する臓器で、いわば赤ちゃんのライフラインです。本来、胎盤は赤ちゃんが誕生するそのときまで岩場の貝のように子宮に付着し続けます。
しかし、これが何らかの原因ではがれてはならないときにはがれてしまうと、赤ちゃんへ酸素が届かなくなり、赤ちゃんはお腹の中で苦しい状態になってしまいます。そしてお母さんも、はがれたところから起こる出血により、命の危険にさらされることがあります。
日本の妊産婦の死亡原因のうち、最も多いのは妊娠・出産が理由で起こった危険な出血(産科危機的出血)です。そして常位胎盤早期剥離を理由とした出血は、産科危機的出血のなかでも多い割合を占めています。常位胎盤早期剝離が起こる頻度は、妊婦さん全体の0.5~1.3%と稀ですが危険度は高く、もし症状が出たらすぐ治療を始めなければならない病気といえるでしょう。
軽症でも危険度が高い!? ―分類と症状―
常位胎盤早期剥離の重症度は、胎盤がどれくらいはがれたかによって決まります。
分類は、軽症から重症(Grade 0からGrade Ⅲ)まで4段階とされています。

軽症の場合、胎盤のはがれた部分がごくわずかで、出産後の胎盤を確認して初めてわかるようなケースです(Grade 0)。この場合、赤ちゃんに大きな影響はなく、お母さん本人が自覚する症状もほぼなかったと考えられます。しかし、症状が進むと、たとえ軽症でも赤ちゃんは酸素不足となり(胎児機能不全)、長時間脳に酸素が運ばれなかった影響で脳性麻痺や死亡に至ってしまうことがあります。
重症の場合、大量の出血が起こって「出血性ショック」という状態になったり、その出血が引き金になって、ますます出血しやすい状態(DIC)になったりすることがあり、お母さんの命にもかかわります。急激に症状が進んだり、対応が遅れてしまうと赤ちゃんがお腹の中で亡くなってしまうケースも少なくありません。
気を付けたい自覚症状
常位胎盤早期剝離でみられやすい自覚症状は、次のようなものです。
- 腹痛、お腹の硬直
おもに下腹部に痛みが起こります。突然の強い腹痛だったり、最初は軽かった痛みがだんだん強まったりとパターンはいろいろですが、陣痛のような波のある痛みではなく、痛みがずっと続くのが特徴です。
また、お腹を押されると痛みを感じたり、お腹が硬くなったりすることもあります。その硬さは、触れた人が「板のよう」と感じる特徴的な硬さで板状硬とよばれます。 - 出血
胎盤がはがれた位置から出血が起こります。これが体外に流れ出して不正出血になることがあります。
ただし、常位胎盤早期剝離には、出血が胎盤と子宮壁の間に溜まる「内包型」というタイプもあります。この場合は外への出血は起こりませんが、かわりに強い腹痛が起こることが多いようです。
なお、血性の羊水も重要な判断ポイントです。妊婦さん本人には確認しにくいものですが、破水が起こった場合、それが赤系の色をしていることで気づけることがあります。
- 胎動の減少
一部でも胎盤がはがれると、赤ちゃんには正常に酸素や栄養が行き届かなくなります。このため、だんだんと胎動が少なくなったり、まったく感じなくなったりします。突然の胎動の減少は、赤ちゃんの具合が悪くなっていることを示す重要なサインです。
診断は総合判断
常位胎盤早期剥離の診断は難しいといわれています。超音波(エコー)では、胎盤と子宮壁の間の血のかたまりが確認できることもありますが、必ず見つけられるわけではありません。超音波と赤ちゃんの心拍数モニタリング、腹痛や出血などの自覚症状を合わせた総合判断で診断されます。
治療は「救命第一」の「対症療法」
今の医療では、はがれてしまった胎盤そのものを治療することはできません。このため、治療は妊婦さんと赤ちゃんそれぞれの命を救うという視点で、起こったことに対応する対症療法がとられます。
症状が明らかで、常位胎盤早期剝離が強く疑われる場合は、緊急帝王切開で赤ちゃんを早く外に出すことがほとんどです。お腹の中で亡くなってしまった場合も、早めに赤ちゃんを外に出すことでお母さんの出血を食い止めます。
妊娠数週によっては、胎盤のはがれがごくわずかで、妊婦さんと赤ちゃんの状態が悪くなければ、病院での管理のもと妊娠の継続を選択することもあります。
予防はできる? 原因とリスクファクター
常位胎盤早期剝離が起こる原因ははっきりしていません。しかし、「これがあると、他の妊婦さんより常位胎盤早期剝離になりやすい」という、危険因子はわかっています。
よく言われている危険因子は以下のようなものです。
- 高血圧
妊娠高血圧や、妊娠高血圧腎症がある方は、ない方と比較して常位胎盤早期剝離になりやすいことがわかっています。
高血圧の予防のためには、塩分のとりすぎや体重の増加に気を付けることが大切です。また、妊婦健診などで高血圧を指摘されたら、医師の指示を守るように心がけましょう。
- 腹部への衝撃(外傷)
転んだり、どこかから落ちたり、何かがぶつかったり。さまざまな形で妊婦さんのお腹に加わった衝撃は、胎盤にも伝わって、常位胎盤早期剝離を起こす原因になります。
なお、お腹に衝撃が加わる出来事があったあと、すぐに症状が出るとは限りません。少し時間をおいて疑わしい症状が出てくることもあります。もしそのようなことがあったら、しばらくは体調に注意するようにしてください。
- 喫煙
タバコは誰にとっても有害ですが、特に妊婦さんの場合は胎盤の機能を低下させることにつながり、常位胎盤早期剥離のリスクを上げるといわれています。
喫煙で発生する一酸化炭素は、酸素を運ぶヘモグロビンと結びつく性質があり、常位胎盤早期剥離でなくても赤ちゃんを酸素不足にさせる危険があります。妊娠中のタバコはもちろん控え、誰かのタバコの副流煙もできるかぎり避けましょう。
- その他
その他、それぞれの妊婦さんの状況や体質により、常位胎盤早期剥離のリスクが上がることがあります。
たとえば、双子以上の妊娠では、ひとりの場合より発生率が高くなるといわれます。また、35歳以上の妊婦さんはやや常位胎盤早期剝離のリスクが上がるとされ、特に40歳以上の方の場合、35歳以下と比較すると高い発生率になることがわかっています。ほか、お腹に細菌の感染が起こる絨毛膜羊膜炎、陣痛以前に破水する前期破水も常位胎盤早期剥離のリスクとなります。
そして、過去に常位胎盤早期剝離を経験している方の場合、同じことが起こる確率はとても高いといわれます。常位胎盤早期剝離になったことがある方は、早めに医師に伝えることをおすすめします。
体調の変化に気を付けて、早い対応を
常位胎盤早期剥離は、早めに気づいて対応することが大切な病気です。いざというときのためにも、まずは「こういう病気がある」ことを知っておくとともに、できるだけリスクを避ける生活を心がけてください。
常位胎盤早期剝離の他にも、赤ちゃんやお母さんの体に起こるトラブルを「妊娠・出産のトラブル」でご紹介しています。
ぜひあわせてご覧ください。

この記事を書いた人(プロフィール)
富永愛法律事務所医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)
弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。