重度胎児機能不全(レベル5)の状態で禁忌とされるオキシトシンの投与を行い、出生した児に重度脳性麻痺の後遺症が残ったことについて、約1億9000万円(産科医療補償制度既払補償金を含む)で示談が成立したケース - 産科医療LABO
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解決事例

2024.10.09

重度胎児機能不全(レベル5)の状態で禁忌とされるオキシトシンの投与を行い、出生した児に重度脳性麻痺の後遺症が残ったことについて、約1億9000万円(産科医療補償制度既払補償金を含む)で示談が成立したケース

医療ミスの事案概要

四国地方の産婦人科クリニックで、破水のため入院した初産婦さんは、妊娠高血圧腎症の症状があり、赤ちゃんの心拍数にも危険なサインである基線細変動の減少や、一過性徐脈が認められていました。速やかな帝王切開が求められる状況での不適切な促進剤(オキシトシン)の使用により、赤ちゃんは酸血症、重度新生児仮死の状態で生まれ、低酸素性虚血性脳症により重度脳性麻痺の後遺症が残りました。

法律相談までの経緯

当初ご両親は関東地方の法律事務所に相談をしておられました。しかし、協力医がおらず調査が進まないとのことで、当事務所にご相談がありました。

相談後の対応・検討内容

まず、産科医療補償制度の原因分析報告書、カルテ等の検討から、産婦人科診療ガイドラインに沿っていない問題のある診療行為が行われていたことがわかりました。

妊婦さんは収縮時血圧が140以上、蛋白尿を伴う妊娠高血圧腎症の症状が出ており、赤ちゃんの心拍も、時折苦しいサインである一過性徐脈が出現していたため、母子の状態を考慮すると、帝王切開などの急速遂娩をすぐに実施できるよう準備をする必要がありました。

また、血圧を下げるための降圧剤投与の影響で、妊婦さんは繰り返し意識を失い、子癇発作を疑うべき状態でしたが、微弱陣痛に対してガイドラインで推奨されている投与量を超えた陣痛促進剤(オキシトシン)が投与されていました。

その後、オキシトシン投与は一度中止されたものの、胎児心拍数波形がレベル5の重度胎児機能不全に至っているにもかかわらず、オキシトシンの投与が再開されました。重度胎児機能不全に対するオキシトシンの投与は禁忌といわれており、それによって赤ちゃんの酸血、低酸素状態を助長したと考えられました。

どんな場合にオキシトシン使用は禁忌なのか

添付文書には、次のような場合にオキシトシンの使用は禁忌であると記載があります。

・成分に過敏症の既往がある

・血流改善剤や子宮頚管熟化剤を投与している

・ラミナリア等の挿入中またはメトロイリンテル挿入後1時間内

・骨盤狭窄、児頭骨盤不均衡、横位がある

・前置胎盤や常位胎盤早期剝離

・重度胎児機能不全がある

・過強陣痛

・切迫子宮破裂(子宮破裂の恐れがある)

オキシトシンは、正しく使えば分娩を進めてくれるものですが、人工的に子宮の収縮を引き起こす薬剤のため、その効果が強くなりすぎて赤ちゃんやお母さんに害を及ぼすことがあるということです。

示談交渉

まずはクリニックに対し、通知書を送付しました。通知書の内容は、産婦人科診察ガイドラインや原因分析報告書の評価に基づいた詳細な検討結果をまとめ、損害賠償を求めるなどの記載をしました。クリニックの代理人弁護士からは、話し合いでの解決をしたい旨の連絡があり、こちらの考える賠償額を教えてほしいとの回答がありました。そこで、ご両親から出産後の様子や、介護状況についても詳細なヒアリングを重ね、寝たきりで日常のすべての場面で全介助が必要な状況であること、ご両親(特にお母さん)による24時間の付添い介護が今後も続くこと、介護のために余儀なくされた自宅の改造費などを含め、3億円以上の損害になることと明細についても詳しく示した書面を作成し、証拠となる書類もそろえて送りました。その際には、訴訟になれば正式な請求金額として、さらに弁護士費用や事故の日からの利息分も加わり、3億円を超えることも踏まえて申し入れを行いました。

相手方からは、介護にかかる多くの費用について「因果関係が不明」である、損害項目の金額は高すぎるとして、1億1500万円が限度だとの回答がありました。しかし、実際の介護状況を考えればご両親としても到底納得のいく内容ではありませんでした。そこで、さらに介護で用いている事実につき因果関係を明らかにするため、証明となる資料も加えて改めて相手方に提出しました。訴訟も辞さない姿勢で粘り強く交渉を繰り返した結果、交渉開始から約2年、約1億9000万円(産科医療補償制度既払い金を含む)での示談が成立しました。

弁護士のコメント

脳性麻痺のお子さんと一緒に暮らしておられるご両親は、たとえ産科医療補償制度の給付金があっても全く足りず、お子さんの将来について大きな不安を抱えています。お子さんの不安定な病状、毎日の介護、そして何よりも、介護のために必要な人的・物的サポートにお金がかかるという現実があります。

ご両親のどちらか一方が仕事を辞めて介護をしていることが多く、仕事でのキャリアは諦めざるを得なくなっています。私達弁護士が、介護費用の請求金額をとして3億円と伝えると、驚く方は多いですが、一時間の最低賃金が1000円以上の日本でなぜ24時間介護する家族には日額8000円しか認められないのか。そのことに疑問を感じない弁護士や裁判官の方がおかしいと思うのです。

現実に大変な生活を強いられているご家族を見ると、保険会社の基準(どんな大変な介護状況でも日額8000円)に、簡単に納得できるはずがありません。

今回は相手方代理人が約1億9000万円の支払いを認めてくれたことで、ご両親は訴訟にはしない決断をされましたが、本当なら平均寿命までの介護費用すべてを負担すべきだと訴えてもよいはずです。

今回裁判をしなかった理由の一つは、3~5年かかる間の時間的・精神的負担を考えてのことです。ご家族にとって、毎日の大変な生活に加えて裁判の負担を考えると、もっと大変になるのではないか、それなら話し合いで納得しておいた方がいいのでないか、という苦渋の決断でした。

日本の賠償手続きの煩雑さ、長期化は障害のあるお子さんがおられるご両親にはあまりに過酷なのです。打ち合わせを重ねながら、ご両親のお気持ちと裁判のメリットデメリットについて何度も話し合いながら、決断をしていきました。

何の補償もなかった昔と比べれば、産科医療補償制度からの補償は、過失の有無を問わずに給付されるありがたいものだと思います。しかし、1年120万円で足りるはずはなく、20歳までしか生きないことを前提にした制度で十分と言えるでしょうか。

今も、何かできないかと考えあぐねておられるご両親はたくさんおられると思います。時間を戻すことや、健康な体を求めることは難しくても、今できることをご両親やご家族と一緒に考えてゆけたらと思っています。

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