解決事例
帝王切開で生まれた赤ちゃんに脳性麻痺の後遺症が残ったことについて、分娩監視義務に違反した病院側の責任が認められた事例
事例の概要
帝王切開で生まれたAに脳性麻痺の後遺障害が発症したことにつき、分娩を担当する医師と看護婦に胎児心拍数の常時監視義務を怠った過失があるとして、病院側の損害賠償責任が認められた事例。
Aは重度仮死で出まれ、脳性麻痺の後遺障害を負ったとして、原告らが、被告(病院)に対し、損害賠償を求めた事案で、分娩監視装置の記録では、高度変動一過性徐脈や基線細変動の減少などの異常波形が出現していたにもかかわらず、分娩監視装置による監視を終了し、その後再開するまで分娩監視装置による監視を行わなかった。また、医師の指示にもかかわらず胎児心音の聴取を行わなかった看護師らの継続監視義務違反を認め、それらの注意義務違反によりAに脳性麻痺が発生したといえるとして、被告の債務不履行及び使用者責任に基づく損害賠償義務を認めた。(福井地裁 平成15年9月24日判決)
弁護士のコメント
出産時の分娩監視義務については、多数の判例の集積がある。従来の判例では、分娩監視装置によって継続的監視が行われていれば、分娩監視を行っていたと判断されることも多かったが、今日では、胎児心拍数異常を認めている以上は、原則として分娩監視装置の継続的装着が必要と判断され、分娩監視に代わるのは、常時胎児心拍を聞き、陣痛発作の状況を観察し続けることだと判断される傾向にあり、分娩監視装置の連続装着が基本になってきている。
上記判例でも、胎児心拍数基線細変動がほぼ5bpm以下で減少・消失しており、一過性頻脈がなく、比較的高度な徐脈が見られた状態で、継続的に胎児の状態を観察するとともに酸素投与などの母体への治療を行い、それでも胎児状態が悪化するようであれば直ちに急速遂娩を行うことができるように、慎重に経過観察を行う義務があったとして、分娩監視装置による監視を終了した医師の過失を認めている。
同様の判例は多いが、低リスクで緩やかな分娩経過であったケースでは、分娩監視装置による継続的観察が必要ではなかったと判断したケースもある。例えば、岡山地裁倉敷支部 平成12年5月11日 判タ1084号242頁では、低リスク妊婦で、入院時モニタリングで異常を認めず、陣痛微弱で分娩経過が緩徐であったことを理由に、分娩監視義務を認めなかった。
現在、日本産婦人科学会のガイドラインでは、基線細変動、一過性頻脈、徐脈の評価を5段階で評価し、急速遂娩の準備をすべき3以上のレベルを客観的に判断できるようになっている。このガイドラインに従った処置を行わなかった場合には、特段の理由がない限り、問題ある処置と判断されることが多くなっていくと思われる。また、新生児蘇生についてもガイドラインに沿った処置が勧められている。両ガイドラインをもとに、各ケースの事実の評価をすることが必要になる。
この記事を書いた人(プロフィール)
富永愛法律事務所医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)
弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。