HELLP症候群
お母さんのトラブル
切迫早産などを含めると、妊娠・出産による合併症は全妊産婦の50%以上に発生すると言われています。
それだけ多くのトラブルが起こりやすい、妊娠・出産。
ここでは重篤化すると危険なお母さんに起こるトラブルを紹介します。
HELLP症候群
どんな病気?
HELLP(ヘルプ)症候群は妊娠後期になりやすい病気のひとつです。HELLP症候群とは「溶血(Hemolysis)」「肝酵素の上昇(Elevated Liver enzyme)」「血小板の減少(Low Platelet)の3つ特徴を持ち、その特徴の頭文字からつけられた名前です。
昔に比べると、きちんと妊娠期間の管理がされていれば、HELLP症候群にまで至ることはまれになってきていますが、妊娠管理を怠りHELLP症候群にまで至ってしまうと、お母さんだけでなく赤ちゃんにまで影響がでますので注意しなければならない病気です。妊婦健診の際の血液検査は、このHELLP症候群を起こしていないかどうか確認することも一つの目的になっています。
どんな症状?
症状としては突然に上腹部痛や胃痛に襲われ、倦怠や疲労を感じたり、吐き気を感じて嘔吐したり、下痢をしたりなどの症状がでたりします。また頭痛や眼華閃発(目がチカチカする)などが起こることもあります。風邪の症状や妊娠後期の不快感と似ていたりするので、初めはなんとなく体調が悪いだけかな?と思ってしまうこともありますが、妊娠中は安易に考えず医療機関に相談し、必要な検査を受けることが重要です。
いつ、どんな人に
起こりやすいの?
HELLP症候群を発症したケースのうち、約70%が妊娠中(特に妊娠27週から37週)に発症し、残りの30%は出産を終えた後(特に分娩後48時間以内)に起こります。全妊娠の0.5~0.9%に発症するとされていて、重症妊娠高血圧腎症(妊娠高血圧症候群の重症例)では10~20%に発症します。また二人目以降の経産婦や多胎妊娠、高齢妊娠の人に多いと言われています。
発症すると
どうなるの?
HELLP症候群は、一旦発症すると急激に進行し、DIC(播種性血管内凝固)、急性腎不全、子癇、常位胎盤早期剥離、肺水腫、肝被膜下出血などの重篤な合併症をきたして、お母さんや赤ちゃんが死亡することもあります。
なぜ起きるの?
HELLP症候群の詳しい原因は特定されていませんが、妊娠によるお母さんの肝動脈(肝臓の動脈)の収縮や血管内の細胞の障害などとの関連が考えられています。また発症した人の約90%に妊娠高血圧症候群の合併がみられます。お母さんの血圧が高い状態が続いている場合(妊娠高血圧症候群)には、HELLP症候群になっていないかどうか、血液検査をして調べる必要があります。
どんな治療を
するの?
HELLP症候群になってしまった場合、唯一の治療法は妊娠の終了(出産を終えること)です。妊娠34週以降で胎児の成長が順調な場合は、赤ちゃんは母体外でも生きることができる状態になっていますので、帝王切開が行われることが多いです。しかし妊娠34週未満でも妊娠を終了させることが必要と判断された場合には、早産になった赤ちゃんが母体外で生きられるように、ステロイドを投与し、母体と胎児の状態を慎重にみて、ステロイド投与後48時間以上経ってから分娩を行うかどうかを検討します。ステロイドは、胎児の肺熟成を促す役割があり母体の血小板の減少を一時的に抑えられる効果が期待できます。出産を終えるとHELLP症候群の症状は改善していくことが多いのですが、出産後も一定期間は、お母さんに様々な合併症が起きる可能性があるので慎重な管理が必要です。またHELLP症候群が、赤ちゃんに直接何らかの影響を及ぼすかどうかについては、明らかになっていませんが、分娩時期によっては赤ちゃんが早産で生まれてくることもあります。早産児や低出生体重児の場合、新生児呼吸窮迫症候群などの合併症が起こる可能性もあるので赤ちゃんへのケアも大切になります。
このようにHELLP症候群は、高度な医療が必要になるため症状や血液検査の結果によりHELLP症候群が疑われたら、高度医療機関に搬送して治療する必要があります。
HELLP症候群の出産トラブルでは、お母さんの血圧が高い状態であるのに入院管理を行わなかった場合や、吐気・嘔吐が起こったのに血液検査をしなかったために妊娠高血圧症候群が見落とされてしまうケースがあります。一旦HELLP症候群になれば、第一の治療法は、妊娠を終了することです。十分な観察をしなかったことで高度医療機関に搬送するタイミングが遅れてしまうと、脳出血を起こしてお母さんに後遺症が残ったり、赤ちゃんが脳性まひになってしまったり、母子ともに亡くなってしまうような悲惨なケースもあります。