解決事例

ガイドラインに反した陣痛促進剤の使用方法を行い吸引・鉗子分娩に固執したため、児に重度脳性麻痺の後遺症が生じたことについて約2億4000万円で示談が成立した事例
医療ミスの事案概要
四国地方の産婦人科クリニック(年間分娩件数約850件、常勤産婦人科医4人:2025年4月現在)での事故です。
分娩を進めるために陣痛促進剤を開始
妊婦さんは陣痛発来のため入院した後、分娩の進行がゆっくりであったため陣痛促進剤(アトニン)の投与が開始されました。30分毎に薬剤の増量を続けていたところ、胎児に一過性徐脈が頻出し始めレベル4の胎児機能不全の状態となっていました。しかし、その後もアトニンが減量・中止することなく増量されました。助産師が人工破膜を行った際には羊水の混濁が認められていました。
鉗子・吸引分娩に難渋
医師が診察した時には、急速遂娩を実施すべきレベル5の状態でした。医師は、急速遂娩の方法として吸引分娩を試みましたが、うまくいかなかったため鉗子分娩に切り替え、さらにその後にも吸引分娩を繰り返した後に赤ちゃんが娩出されました。
赤ちゃんは新生児仮死の状態で生まれ、重度脳性麻痺の後遺症が残りました。
相談までの経緯
事故当時、クリニックの院長からは、ご両親に対し謝罪もなく、言い訳をするばかりで事故について十分な説明もありませんでした。院長の態度でさらに傷つけられたご両親は、裁判で責任を明らかにした方が良いのではないか、と悩まれていました。
相談後の対応・検討内容
問題点1:陣痛促進剤の不適切な使用
陣痛促進剤の投与について、産婦人科診療ガイドラインでは、胎児機能不全が出現した場合に減量あるいは中止を検討し、増量する場合には胎児機能不全がないことを確認するよう求められています。
本件では、アトニンという陣痛促進剤が投与され、本来減量や中止をすべきレベル4の胎児機能不全から、レベル5に状態が悪化し、医師による吸引・鉗子分娩で赤ちゃんが娩出されるまで、陣痛促進剤が増量され続けていました。
問題点2:器械分娩に固執した急速遂娩
経過からして、医師の診察時すでに胎児機能不全の状態が長時間続いていたことを考えれば、すぐに帝王切開で赤ちゃんを出してあげる必要がありました。
しかし、子宮口が全開でないにもかかわらず適応ではない吸引分娩を実施し、赤ちゃんが出てこないため鉗子分娩に切り替えた後、鉗子を床に落とすなどして不成功となってからも、再度吸引分娩を繰り返すなど帝王切開に切りかえず、器械分娩(吸引・鉗子分娩)にこだわったことで赤ちゃんの低酸素・酸血症を進行させたと考えられました。
その他にも、呼吸もなくだらんとした状態で生まれた赤ちゃんに、ただちに酸素投与をすることなくカンガルーケア(赤ちゃんをお母さんの腕の上で抱かせること)を行ったり、高次医療機関に搬送されるまでの時間も相当遅いなど、出生後の経過にも問題がありました。
示談交渉
ご両親は許せない気持ちから、裁判をすることも考えておられました。しかし、お子さんの介護をしながら裁判を戦うことは、時間的にも経済的にも負担が大きいことも考え、まず示談での交渉を試みることにしました。
言い訳をしていたクリニック側は弁護士からの通知が届くと、責任を認めて賠償をすることも考えている、と連絡してきました。しかし、こちらからの請求金額については直ちに応じられないとのことで、特に将来介護費について、相手方代理人からは大幅な減額を求められました。
当方としてはお子さんの成長に伴ってご両親の身体的、金銭的負担は今後も増え続けることは明らかであり、ご両親の介護状況を鑑みれば減額案は到底受け入れることはできないと回答しました。
お子さんの状況は常に介護を必要とし、窒息の危険からご両親がそばについて夜も安心して眠ることができず、専用の福祉車両や自宅の改造費なども必要でした。その実状を証拠を示しながらじっくり時間をかけて相手方代理人に説明しつづけ、許せないというご両親のご意向もくり返し伝えることで、最終的には、約2億4000万円(産科医療補償制度既払い金含む)での解決となりました。ご両親にとってもある程度納得のいく形で解決ができたと思います。

弁護士のコメント
陣痛促進剤による事故は、ガイドラインの普及と産婦人科医の先生方による不断の努力によって、減少しつつあります。
妊婦さんのためにお産をスムーズに進める薬でもありますが、正しく使わなければ、人工的に悪影響を与えてしまうことになりかねません。まだ一部の医療機関ではガイドラインに沿わない使用方法により妊婦さんに過強陣痛が生じたり、子宮破裂となることもあります。お腹の中にいる赤ちゃんが苦しむこともあります。
妊婦さん自身にも陣痛促進剤を使うメリットとデメリットを知ってほしいと思います。異常な痛みや気分が悪いなど気になることがあるときには、すぐに医師や助産師に伝えてほしいと思います。